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DiS─トガオイビト─ side-A
1-6

「ハイドと……別れた、後……とりあえず、アジトの方に……向かったんだ……」

 弱々しく呼吸をしながら、トトは小さな声でゆっくりと語り出す。

「何とか……アジトには、行けたんだ……。フォルテさんに会ってから、……もしかしたら、ハイドが、来るかも……しれないから、家に帰って……。しばらくしたら……急に……あいつらが……」

「“あいつら”?」

 ハイドは疑問に思った。ここに居たのは一人だけだ。だがトトは明らかに複数形で言った。

「あいつの……他に、後……二人居たんだ。俺を……撃ってから、いなくなった。どこに……行ったか、わかんない」

「そうか……。……無理させてわりぃ。もう喋んな……」

「フォルテ、さんは……大丈夫、か……」

 トトはハイドの言うことを聞かずに苦しそうな息遣いの中で喋り続けた。ハイドは再度注意をしたが、トトは言う通りにはならないようだった。流石にハイドも止めるのを諦めてしまった。

「……心配すんな。お前の事は俺がアジトに戻ったら言うからよ。話し合いするって言ってたから、みんなもいるだろうし」

「……話し合い?」

「あぁ、今日やるって言ってただろ?」


「……そんなの、知らない」



 予想外の返答だった。それに対し、ハイドは慌て始めた。

「え? 何言って……」

「そんな、話し聞いてない……。俺が、聞いたのは……、……『“野良猫”に会えた』、『情報が手に入った』……って、いうぐらいしか……」

「“野良猫”……ッ!?」

 今までは沈黙していたキリルがトトの言葉に反応を示した。

「あいつは“野良猫”の居場所を知っているのか?」

「……わからない」トトは小さく首を横に振る。

「け、ど……そう言っていたのは……た、し……ウッ」

 突如、トトが激しく咳き込み始めた。それに伴って血も吐き出された。

「トトッ!? 待ってろ、今医者を──」

 ハイドはトトを床に横たえて立ち上がろうとした──が、その前にトトはハイドの服を残された力を振り絞って掴んだ。

「何を──」

 服を掴んだトトは弱々しく笑顔を浮かべていた。

 そしてそのまま、静かに首を横に振った。

 それが一体何を示しているのか。ハイドにはわからなかった──わかりたくなかった、かもしれないが。

「……ッ、何してんだよ、離せよ……ッ! 医者を呼びに、行けねぇだろ……ッ!!」


 とうとうハイドは嗚咽を漏らし始めた。


「キリルッ! 俺の代わりに……」

「無駄だ。諦めろ。……もう、助からない」

 キリルの言葉は、非情だった。──しかし、事実である。

「……ハイド」

 トトの声は聞き取るのがやっとの程に小さかった。そして、目の奥にある命の光が、徐々に消えてきた。

「約……束……ちゃ、んと……ま、も……れ……」



 トトの目は完全に閉じられ、体全体から力が無くなった。



「……トト?」

 体を揺さぶり、何度も呼びかけた。しかし──二度と反応を見せる事は無かった。

「勝手に、死ぬなよ……ッ馬鹿野郎……ッ!!」

 ハイドは動かなくなったトトの体に顔を埋め、泣き声を上げた。

 キリルはそんな様子をただ見つめていた。表情には僅かな──憐れみがあった。










 ハイドが泣き止んだ。

 そして冷たくなり始めたトトの体をゆっくりと床に横たえて、胸の上で両手を重ねた。

 しばらくはじっとその姿を眺めて黙っていたが、突然ハイドは立ち上がりドアの方へ向かいノブへ手をかけた。

「戻るのか?」

 キリルはそう背後に声をかけた。聞かずにそのまま出て行くのでは、と思っていたがハイドは立ち止まりきちんと話しを聞いていた。

「……みんなに知らせねぇと」

「……やめておいた方がいいと思うけどな」

「なんでだよッ!!」

 ハイドは振り返りキリルを睨みつけた。その目は泣いていたせいか赤く腫れていた。

「本当に……馬鹿なんだな」

「あぁッ!?」

「落ち着け。……どうして異端審問官が居たと思う」

 キリルは絶命している黒服の男をチラリと見た。それに釣られてハイドも見たがすぐにキリルに視線を戻した。

「それは……トトを……殺す為」

「まぁそれもある……けど、それだけならとっくにここから立ち去っている筈だ。……なのにまだ居た」

「何が言いたいんだよ? 勿体ぶらずに早く言えよ」

「……お前には単刀直入に言った方がいいか」キリルは小さく溜め息をつく。

 そして言葉を続けた。



「お前が来るのを待っていたんだよ」



「……は?」ハイドはキリルが言っている事を理解出来ないようだ。

「お前がここに来るのを待ち伏せして、そして……殺すつもりだった」

「え……ッ!? 何で」

「お前がここに来るのは知っていた。ここで待っていた方が確実に……」

「ちょっと待て」

 話しについていけなくなったらしく、ハイドはいったん話しを制止した。そして自分の疑問を口にする。

「……何でこいつは俺が来る事を知ってたんだよ」

「……まだわからないのか?」

 キリルは呆れてしまった。しかしハイドは何故キリルが呆れているのかわからないようだ。

 そしてキリルはある問いかけをした。


 それは、ハイドを──真実へと導いた。


「お前の他にここを知っているのは誰だ?」


「俺の他には後……」

 その言葉の続きは無かった。そして明らかに──焦りが現れ始めた。

「なん……で、え……。いや、そんな、有り得ねぇよ……!」

「……ようやくわかったか」

「待てよ……! もしかしたら、異端審問官の奴らがここを調べて……」

 ハイドは僅かながら希望を持っていた。しかし──

「流石に……たった家一軒の住人がレジスタンスかどうかを調べるのは難しいだろう」

 キリルのその言葉を聞いたハイドは──絶望を顔に浮かべ突然力を失ったかのようにその場に膝をついた。




「……フォルテさん……何で」

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あきゅろす。
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