DiS─トガオイビト─ side-A 1-10 話が終わった。 ハイドはいつの間にか胸倉から手を放しフォルテを見下ろしていた。跡は残っているが涙は流していない。 一方フォルテは相変わらず力無く座り込んだままだ。 「……てっきりお前は殺されたと思っていた……」 フォルテが静かに呟く。ハイドは黙って聞いている。 「憎まれるのは、受け入れる……。……一生この罪は背負っていくつもりだ。本当に、すまない……」 「……」 フォルテは口を開かなくなり、ハイドも俯いてずっと黙ったままだ。 辺りは、悲愴の時が流れていった。 「話しは終わったようだな」 それを打ち破ったのはキリルの一言だった。 「フォルテ……だったよな。お前に聞きたい事がある」 キリルは今まで二人から離れていたがフォルテの元に近づいてきた。 「……“野良猫”は何処に居る?」 「“野良猫”……?」 キリルが発した言葉を聞いたフォルテは静かに見上げる。 その時、突然ハイドが動きだしドアを開け出て行ってしまった。 キリルは見向きもしなかったが、フォルテは自然にハイドを悲しみに満ちた目で追っていた。 「知っているんだろ? 居場所を」 フォルテの意識が別の所に行ってしまったのでキリルは再度質問をした。 その声でフォルテは視線をキリルに戻すと、笑みを──自嘲が少し含まれる笑みを浮かべた。 「……あぁ」フォルテはゆっくりと立ち上がった。 「必死で捜してようやく見つけたんだ。話しが長くなってしまうかも知れないが……」 「それでも構わない」 「……その前に聞きたい。お前は……何者なんだ? お前ような奴は初めて見た。何故“野良猫”の居場所なんか……」 「言いたくない」 フォルテの質問をキリルはピシャリと打ち消してしまった。無駄だとわかったフォルテは残念そうに溜め息をつく。 「……余計な詮索をしてすまない。それじゃ……教えてやる」 太陽が顔を出し始める。 誰も出歩いていない街中にキリルは立っていた。 目的地はわかった。後は進むだけだ。 動き出そうとした──その時だ。 「おーーいッ! キリル〜!」 無表情だったキリルの顔が──途端にうんざりしたような顔へと変わっていった。 背後から走ってくる足音がしてきたのでキリルは本当に渋々といった様子で振り返った。見えてきたのは、こちらに向かって走ってくるハイドの姿だった。 「はぁー疲れた……。やっぱこんな早くから行くと思ったぜ」 お陰で寝不足だ、とハイドは欠伸をしながらそう言った。対してキリルは迷惑げに眉をひそめ、目を細めた。 「……何の用だ」 「は? 決まってんだろ。一緒に行くんだよ」 キリルは驚きの表情を浮かべて固まった。──ハイドが言っている事を信じられないようだ。 「ふざけるな。なんで」 「──お前が何と言ってもついて行くからな」 反論をしようとした。が、それはやりにくい事となってしまった。 ハイドの眼差しには──決意が秘められていたからだ。 「俺は“友達”を、失っちまった……だから、もうこれ以上は“友達”を失いたくないんだ……」 そこまで言った後、ハイドは笑顔を浮かべた。だが、何処か弱々しい所が有る為か自信が喪失しているようにも見える。明るさが無い。 「わかんねぇけど、お前何かやるつもりなんだろ? 一人じゃ大変だから、俺が手伝ってやるさ」 キリルは今までの話しは黙って聞いていたが、どんな言葉よりも気になったのは──“友達”という単語だった。 何だか、複雑な心境になってしまう。迷惑に感じるだけでは無く他にも感情が存在した。それが何なのかは──自分自身でもうまく表現は出来ない。 しばらく何かを考えた後、踵を返してキリルは進みだした。 「……好きにすればいい」 と、ポツリと呟いて。 当然ハイドはこれを聞き逃してはおらず、笑顔に明るさを取り戻すとすぐにキリルの横に並んだ。 二人は、歩き続ける。 [*前へ][次へ#] |