竜ノ誓約者
<3>
「……タシギ居んのかよ?」
「たぶん居ると思うよ〜」
落ち込みから元通りになったセーナはヴァイスの言葉に軽い調子で答えると、家の引き戸をノックした。
「こんにちは、タシギさん……あッ」
挨拶をしながら引き戸をあける。
家の中はというと、壁のほとんどは小さな引き出しが多数あり一部は本が入っている棚となっていた。奥の方に二階に続く階段がある。
そして、中心にある様々な道具が置かれた大きめの長方形のテーブルの近くに、乳白色の髪で、長い前髪のせいで黄土色の目の目つきが悪く見える男──この家の主人、タシギが座っておりセーナの声で彼は顔を引き戸の方に向けた。
タシギはここ、ケシュの村に住む薬師だ。腕が良く、高額な料金の請求はしない為よく村人達はタシギの元へ訪れる。
「おぅ、セーナ」
「何だ、客か?」
普段なら家の中はタシギ一人だけなのだが、この時は──客が居た。タシギと共に顔を向ける。
客人はタシギのほぼ向かい側に座って煙管で煙草を吸っており、赤色の長髪を少し雑に後ろで髪留めを使ってまとめ、かけている黒縁の眼鏡のレンズから髪と同色の鋭い目が覗いていた。顎には無精髭を生やしている。
「ごめんなさい。お客さんが……」
「良いんだよ、こいつは」
タシギはそう呟くと立ち上がり、壁の引き出しへ向かい少しも迷わずに引き出しの中身──薬草を次々と取り出した。
「親父さんの薬だろ? 取り敢えず中に入れ」
何だか申し訳ない気がしたが、今更帰る訳にも行かないのでセーナは中へと入る。
「今回のお駄賃は?」
「野菜を持ってきました」
「お、そうか。いっつもわりぃな」
続いてヴァイスも中へと入る。
すると、ヴァイスの顔を見た客人は──驚き、目を瞠った。
「レオ?」
客人はまじまじとヴァイスを見ながらそう言った。
「俺はレオナルドじゃねぇッ!」
間違えられた事に腹を立てたのかヴァイスはすぐに怒鳴り声で反論をした。
いきなりの大声にセーナはびっくりしたが、一方のタシギは迷惑そうな表情をしながらも黙々と作業をしている。
「……まぁここに居る筈無いし、よく見りゃあ違うな〜。……なるほどな〜」
客人はまだヴァイスを見ながら、不敵な笑みを浮かべた。
「お前がレオの双子の弟か」
今、初めて出会った人物にそんな事を言われて不快だったのか、ヴァイスは眉をひそめる。
「……あんた何者だよ、おっさん」
おっさん発言に客人は一瞬顔がひきつったが、まだ笑みは浮かべていた。むかついているのは隠しきれていないが。
「お兄さん、はレオが居る傭兵団の関係者でね。お前や村の事は聞いてんだよ」
「……お前もう三十路だろうが」
客人はやたら“お兄さん”を強調して言ったが、薬草を揃え再び椅子に座ったタシギにすかさず突っ込まれた。客人に睨まれたが気にせずにタシギは道具を自分の近くに集めている。
「まぁ、ちと時間かかるからよ。二人ともそこに座って待ってろ。ヴァイス、それは隅っこの方にでも置いといてくれ」
乳鉢のような物で薬草をすりつぶし始めたタシギがそう言った。
ヴァイスが籠を下ろすと、二人は適当に置いてあった椅子に腰かけた。
「あぁ、一応紹介しとく。こいつは俺の悪友のロイ。──『自由シームルグ傭兵団』の団長だ」
タシギのいきなりの発言に今度はヴァイスとセーナが驚いた。
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