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竜ノ誓約者
<2>
「……ヴァイスは絵を描いた方が良いと思うな」

「あぁ?」

 目的地である知り合いの家へと歩いていたヴァイスとセーナ。籠はヴァイスが持っていたが、籠を持つのに邪魔そうだったスケッチブックと鉛筆を代わりにセーナが持っていた。
 そしてパラパラとスケッチブックの中身を見たセーナが呟いたのだった。

「だってこの鳥の絵、すっごく上手なのに絵の具で色を付けないんでしょ? ……もったいないね」

「それはあくまで参考にする為に描いてんだよ。流石に本物を見ながら彫刻は出来ねぇし」

「そっかぁ……」

 セーナはとても残念そうに呟き、名残惜しそうにまたスケッチブックの中を見ていた。

 しばらくは会話もせずにただ歩いていた二人だが、突然セーナが、あっ、と声を上げた。何かを思い出したらしい。

「どうした?」

 いきなりセーナが声を上げたので気になったヴァイスは彼女の方に顔を向けた。


「そういえば、レオから手紙が来たよ」

 笑顔を浮かべ、とても嬉しそうにセーナはヴァイスにこう告げた。

 しかし、ヴァイスはその言葉を聞いた瞬間笑顔どころか怪訝そうな、呆れたような、そんな複雑な表情を浮かべた。

「手紙ぃ?」

「うん。……あれ? ヴァイスの所には来てないの?」

「来てねぇよ、そんなもん。……どうせ俺はやっても読まねぇってわかってたんだろ」

「あ、そっか」

 セーナが納得した事に今度ははっきりと呆れた表情をしたヴァイス。しかしセーナはその事を気にせずに話しを続けた。

「レオ、傭兵団の人達はみんな優しいからうまくやっているって。今度初めて護衛の仕事やらせてもらうって書いてあったよ。後はー……村の事とかヴァイスの事とか心配してた」

「……ったく、俺はガキじゃねぇっての」

「なんかレオらしいね」

 セーナは、フフッ、と笑いをこぼす。一方のヴァイスは笑うどころか、むしろ不機嫌そうだ。

 二人の様子には、どこか温度差があった。


 そんなヴァイスの様子に気づいたセーナは、笑うのをやめた。

「……前から気になっていたんだけど」

 そして、真剣な表情でヴァイスに問いかけた。


「……ヴァイスはレオが嫌いなの?」

 ヴァイスは答えなかった。が、セーナが真剣な眼差しをずっと向けてくるのに耐えられなくなったのか、しばらくするとゆっくりと口を開いた。


「……別に、嫌いって訳じゃあ……。ただ、『他人の為だけに一生懸命になる』とか『色んな事を一人で何とかする』とか、……自分だけが苦労するような、そういう考え方が理解出来ねぇから、ムカつく。それだけ。──何でも一人で出来ると思ったら大間違いなんだよ……」


 ヴァイスの告白を黙って聞いていたセーナだったが、やがて俯くとやっと聞き取れる程の小さな声で、

「変な事を聞いて、ごめんね」

 と、謝った。

「別に気にしてねぇよ」とヴァイスなすぐに答えたが、セーナはまだ俯いたままだ。それ以上ヴァイスは何も言わなかった。


 この場の空気が、気まずい。


 だがそんな場の空気を破るかのように、ようやく目的地である家に辿り着いた。



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