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竜ノ誓約者
<4>
 レオナルドは立ち止まり、微かに聞こえてくる弦楽器の音色がどこから来ているのかを聴覚を頼りに知ろうとした。

(こっちからかな……)

 市場に広がる人々を避けながら音色が聞こえる方へ向かう。だんだんと音量が大きくなるので方向は間違っていないという事だろう。

 しばらく進むと街の中央の広場に出た。そして何やら人が集まっている所があり、そこから音色が聞こえている。どうやら一つでは無く複数の弦楽器から作られた音楽のようだ。

 レオナルドは音楽を聞こうと人だかりに近づこうした──が。

 近づく前に音楽が終わり、人々の拍手が響いてしまった。

(あ…っ!)

 レオナルドが近づいた頃には人々は音楽を演奏していた者達の前に置いてある器へ硬貨を入れると散り散りになりどこかへと行ってしまう。
 人が少なくなった所でようやく演奏者達が──二人の女性がはっきりと見えた。

 一人は金髪で青い目、頬にそばかすがある幼さが残る女性で左手にハープを持ちながら去り行く人々に手を振っている。
 もう一人は焦茶の髪をまとめて上の方に束ねておりその目は固く閉じられている。こちらはお礼を言いながら弦楽器の手入れをしていた。

 容姿は異なる二人だったが金髪の女性は右耳のピアスに、焦茶の髪の女性は髪飾りに同じ種類の鳥の羽根を付けていた。

 この鳥の羽根が世界各国を回り人々に音楽やお伽噺などを聞かせる吟遊詩人の集団──『ガンダルヴァ』の証しであるとレオナルドは聞いた事があった。

 一度聞いてみたいとは思っていたのだが……

(終わっちゃったか……まぁ、また聞けるよな)

 少しがっかりしてその場を立ち去ろうとして踵を返そうとした──その時だった。



 目の前に何かが、横切った。



 突然の事で驚き、後退ってしまう。それは猛烈なスピードで横切った為その正体はわからない。

 ただ、黒い影のような物だったとしか。


(今の…何だ……!?)

 レオナルドは辺りを見渡した。が、彼以外の人々は何も変わらず忙しなく歩いていた。

 気のせいか……そう考えた瞬間──また見えた。

 今度は遠くで人々の隙間を先程と変わらないスピードで通った。
 しかし、これに気づいた様子を見せた者は誰一人いなかった。

(みんな気づいてないのか…?)

 自分しか気づいていない──その事に何故だか恐怖を感じた。
 遠くで船が来航した事を知らせる汽笛が鳴り響いたが、レオナルドはただ再び見えた所を放心したようにじっと見つめていた。










「テル、どうかした?」

 演奏を終えて弦楽器の手入れをしていた焦茶の髪の女性──テルが突然動きを止めた為、心配そうに金髪の女性──タロタが尋ねてきた。

「……何でもないよ」タロタの問いかけにテルは笑みを浮かべて答えた。

 船の汽笛が鳴り響く。

「ならいいけど……そう言えば、今来た船にツァイズが乗っているんだよね?」

「その筈だけどね」

「じゃあツァイズに会ってから次の所へ行こうかな〜全然会ってないし!」

 二人は荷物をまとめると港の方へ歩き出した。


「テルは次どこに行くんだっけ?」

「フィデンナ」

「フィデンナかぁ〜遠いなぁ……また全然会えなくなっちゃうね」

「そんなには長く居ないつもりだよ。私にはバレスタの方が合うし」

「そうだよね〜! あたしもこっちの方がっ、わぁっ!」

 話しに夢中だったせいか、よそ見をして目の前の人にぶつかってしまった。どちらもよろめいたが倒れる事は無かった。

「ごめんなさいッ! 全然気づかなくて…!」

「い、いえ……俺もぼーっとしてて…」

 ぶつかった人──レオナルドもタロタの方に向き直って謝罪をする。

 そして船の汽笛が、今度は二回短く鳴った後に一回長く鳴り響いた。船が港に停泊した事を知らせる鳴り方だ。

 あっ、と短く呟くとレオナルドはタロタに軽く頭を下げると慌てて走り去ってしまった。

「……青春ねぇ」

 走って行くレオナルドの背中を見ていてタロタはニヤニヤと笑みを浮かべて何故かそのような感想を述べた。

 一方テルはその背中を固く閉じられている筈の目で──ただ、ずっと見つめていた。

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