竜ノ誓約者
<3>
コルシカは港町でもあり様々な商人が集まる町でもある。
活気がある市場にはバレスタでは見られない珍しい物も置いてあり町の人は皆、独特な訛り──イワンが話している訛りを喋っていた。
おそらくイワンは此処で生まれ育ったのだろう、とレオナルドは思っていた。本人からは直接聞いていないので確信は持ってないが。
「相変わらずの活気やなぁ…」
コルシカの町に入ったイワンはそうポツリと呟いた。懐かしみなどの感情は籠もっていなかった。
「…依頼人はどこにいるんだ?」
道中は無言だったアーデスがやっと口を開いた。
「確かクトラから船で来るってゆーてたやろ? 船遅れてんとちゃう?」
「んじゃ船が来るまで待つしかねぇか…」
ハッシュが欠伸で大きく口を開けながらそう言った。
でっかい口やなぁ、とイワンはからかいながら他の三人の方へと向き直った。
「じゃあ船が来るまで自由行動ちゅーことで。船が来たら汽笛が鳴るから一発でわかるやろ? 汽笛が鳴ったらここに集合な〜」
それじゃあ解散!とイワンが手を叩くと、ハッシュとイワンはどこかに行ってしまった。
レオナルドも店を見てみようかと思い街中へ行こうとした。
「レオナルド」
突然アーデスに声をかけられた。
アーデスとはそんなに話した事は無かったので少し緊張した。
「え、あっはい」
「…ロイさんから預かってきた」
そう言うと折り畳まれている紙と皮袋を手渡してきた。それを受け取り、紙を広げる。
そこに書かれていた文面は明らかにロイの──自由シームルグ傭兵団の団長の性格を表していた。
『護衛デビューおめでとう。みんなとは仲良くやってるか?
ヤバくなったらすぐ逃げろよ。あいつらはちょっとやそっとじゃくたばんねぇから大丈夫だから安心しろ。
デビューのお祝いに優しい〜お兄さんからお小遣いをあげよう!
無駄使いしないようちゃんと考えてから使うようにな。 ──ロイ』
文章を読み終えて皮袋の中を見てみると、そこには一般によく出回っている銅貨や青銅貨より価値がある銀貨が数枚入っていた。
「……子供扱いしないで欲しいな」
落胆しながら言ったこれがレオナルドの感想だった。
「俺達から見れば、お前はまだ子供だ」
そんな様子を見ていたアーデスがフッと微笑んだ。
「わかってますけど、そろそろ…一人の傭兵として認めてもらいたいです」
「…その内な」
そう言うと、アーデスはそばを離れてどこかに行ってしまった。
(その内…か…)
レオナルドはさっき言われた事を考えながらとぼとぼと市場の中を歩いていた。あちこちから自分を誘う商人の声が聞こえたが、覗く気にはならなかった。
(……何が足りないんだろうか…? オレなりに頑張っているのに…)
傭兵団に入って暫く経った。
しかし、今までは傭兵団の雑用係であり今回が初めての護衛であった。しかも先輩傭兵の仕事についていくという形の。
それが少し不満だった。
(…現実はうまくいかないか)
ため息をついてふと商店の売り物を見てみた。
そしてある物が目に入ってきた。思わず立ち止まってしまう。
紫色の小さな花弁がある──アルカダムの花。
ケシュの村に──レオナルドの故郷にだけ生えている珍しい花だ。
途端に、故郷には暫く帰っていない為からか故郷の事が懐かしくなった。
(村のみんなは元気かな…セーナに会いたいな…“あいつ”の事も心配だし…)
故郷の事を考え立ち止まっていると、商人に声をかけられた。驚いたレオナルドは適当に会釈をし、小走りでその場を離れた。
そのまま小走りで市場の中を進んでいると、
綺麗な弦楽器の音色が小さく響いてきた。
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