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竜ノ誓約者
<5>
「なぁ、それってなん……」

 ペンやら液体が入った瓶やらが何の道具だがさっぱりわからないので、ヴァイスはタシギに問いかけようとした──が。

「お前だって書けるだろうがッ!」

「俺は“書く”より“消す”方が専門なんだよ。わかれ」

「……めんどくさいんだろ?」

「まぁ、それもある」

「お前なぁ! 言っとくが、帰ったら傭兵団のやつ書かなきゃなんねぇんだよ。だから力を温存して……」

「なぁに、たった五枚だ。心配すんな」

「他人事だと思いやがって……ッ! てか五枚くらいやれよ!」

「そんなにキツいなら“タクトリスト”雇えばいいじゃねぇか」

「……なんか信用出来ねぇんだよ……それに」

 完全にヴァイスとセーナの事を忘れて言い争いを始めた大人二人。そんな光景にヴァイスは呆れた、セーナは気まずいような視線を向けた。

「……完っ全に俺らの事放置しているな」

「……どうしよ」

 大人二人からセーナはヴァイスの方へ救いを求めるように顔を向ける。一方ヴァイスは腕組みをして二人を不快の意を込めて睨んでいた。当の本人達は気づいていないようだが。

「ていうか、こいつらさっきから何の話ししてんだかさっぱりわかんねぇし。セーナわかるか?」

「たぶん、“タクト”の事を言っているんだと思うよ」

「……なんだそれ」

 ヴァイスにとっては初めて耳にした単語だった。

「ん〜……簡単に言えば“おまじない”みたいなものだよ。そして、そのおまじないを書く人は“タクトリスト”って呼ばれているの」


 唯一文献等が残っている中世の時代──古代から未来で、現在からは過去の時代──に開発された『タクトラ流紋様術式』、通称『タクト』。
 魔術を使う際に詠唱される言葉を“記号”や“図式”として、目に見え尚且つその場に残しておける物に出来るようになる方法を開発した事により、それは発達し広く使われるようになった。
 特定の記号や図式を組み合わせる事で普通に詠唱するのと同様、とまではいかず少し効力が弱くなってしまうが魔術を使えるのだ。

 今ではタクトを書く専門職を『タクトリスト』と呼び、主に旅人向けに様々な種類のタクトを書いた木の札や紙を売っている。ただしタクトリストになるには“必要最低限の魔術が使える事”が条件の為、それほど数は多く無い。


 それからセーナはヴァイスに簡単な説明を話したが、いまいち理解出来ていないようだ。

「少しぐれぇ勉強も大事だぞ」

 いきなり話しに入ってきたタシギの声に反応しヴァイスとセーナはそちらの方へと顔を向けた。そこには、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべているタシギが居た。

「百聞は一見にしかず。まぁ見てろ」

 そう言った彼の視線の先で、渋々、といった様子でロイが先程持ってきた道具を準備し、ペンの形をした道具を手に持っていた。ペンには瓶に入っていた透明な液体が染み込んでいる。どうやらロイの方が折れたようだ。

「覚えてろよ……」

「はいはい。とっととやれ」

 ロイが放った恨めしげな呟きを軽く流し、タシギは先を促す。

 すると、今までは不機嫌だったロイの表情が一変し、真剣なものとなった。静かに、ゆっくりと深呼吸をする。自然と回りも口を開く事は無く、ただその光景を見つめていた。

 そしてロイは紙にペン先を乗せ、静かに動かした。ペンに入っている液体は透明。当然何かを書いても見えないはずである。しかし──

「……え」

 思わず間の抜けた声を上げたヴァイスの視線の先にある紙には、ロイが書いた通りの模様が、薄い緑色に浮き出ており、はっきりと目に映っていたのだった。



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