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Novel
Grave
「金魚と罪」の続き。金魚を可愛がりまくるウルだったが・・・!?

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「おさかなさん」


「……。」


「おさかなさーん」





〜♪



ウルは家に帰ってもご機嫌だった。



金魚が相当お気に入りだったらしく、
小さな金魚鉢に綺麗な水とラムネ水に入っていたビー玉を入れて、一日中眺めて
いる。



「仲間と離れて寂しいか?お前の仲間は餓鬼にやってしまったんだ」



…魚に話し掛けてやがる。




ウルは動物好きだが、こういうちっこくて女々しいのも好きなのか。



…そんなに可愛いかぁ?



「グリ、おさかなさんに食事を与えたい」


「ん?あ、そうだな(食事て…)」



そうだった。餌はどうすればいいのだろう。


そういえば屋台のオッサンは麩をやるといいって…言ってたな。


ウチにそんなもんあったか?




「金魚って、何が好きなのか?」



「鰹節とかシュークリームとかマシュマロとかプリンタルトとか?」


「そりゃオメーが好きなもんだろうが」




鰹節だけならまだマシな答えだったのに…。
結局真面目に答える気ねぇんじゃねえか。



「きな粉ならあるぞ」


「駄目だろ」


「じゃあ虫でも捕ってくるか?」


「…食うのか?」



結局その日は店も閉まっているため、次の日買いに行くことに。



ウルは寝る時まで金魚から離れようとせず、玄関で寝たいとか言い出した。


それはさすがに風邪を引くから、ってことで部屋に金魚鉢を持ってきて二人で寝
た。







それから一週間。


ウルはやっと金魚離れ(?)したが、毎日話し掛けて大切に育てていた。



「ウルは金魚が大好きなんだなぁ」


「ウン。俺の愛情を全て注いで育てるんだ」


「でもこんなにちっこい生き物に、お前の愛情は重すぎるんじゃねぇの?」



「そうなのか?」



最近、ちょっと金魚に嫉妬してる俺。



だってウルの奴、家にいるときは金魚の相手ばかりしてるんだ。


俺に構ってくれるのも少なくなったし…。




ウルは金魚鉢にむかって「おさかなさん…俺の愛は重いか?」なんて言ってる。




俺の愛は重いか?なんて…言われてみてぇっ!



金魚のヤロー、金魚のくせにいっちょまえにウルの心奪いやがって…。



ウルは俺のもんだっ。


俺はウルを金魚から離れさせたくて、言った。


「ウル、一緒に風呂はいろ」


するとウルはまた金魚鉢にむかって、


「おさかなさん、少し待ってるんだぞ」



と言ってついて来た。



フン……。


俺はウルの肩を抱きながら、振り返って水の中を呑気に泳いでる金魚を睨みつけ
た。






次の日の朝。


俺が目を覚ますと、隣で眠っている筈のウルがいなかった。


「ウル…?」



寝ぼけ眼のままベッドから降り、部屋を出る。





ウルは玄関の、金魚鉢の所に立っていた。



また…。
と俺は嫉妬。



俺と寝る時間より金魚見るのが優先かよ、とまたもや金魚を恨めしく思ってしま
う。



「……?」


でも、今日のウルの様子は少し違ってた。



じっと、ただ見つめているだけ。



…話し掛けないのか?


そう思って近付いてみる。


「ウル?」


するとウルは俺を見て不安そうな顔で




「グリ…」


と、名を呼んできた。




鉢の中の金魚は、





ぷかん。





と、ただ浮いてるだけ。






昨日まであんなに元気に泳いでたのに。


今はただ動かず水面に浮かんでいた。




「…あー……」


「死んでしまったのか?」


ウルが、辛そうに俺を見て問う。




ああそうだよ、なんて言えなくて。



「…ウル」


「死んでしまったのか?」



ウルの目が涙でいっぱいになるのを見て、俺は焦った。



「ウル。俺達とは違って、こんなちっこい生き物はそんなに長く生きれないんだ
よ」


「一週間しか?」



ウルがますます泣きそうになる。



ああ…確かに、ちょっと早かったな…。



あんなに嫉妬してた金魚が、死んでしまうと何だか俺もすごく悲しくなった。







ウルは金魚が死んだのを認めたくないと、部屋にこもってしまった。



俺が慰めてやっても意味ないだろうから、あえてほっといた。








それから夕方になって、
やっと部屋からウルが出てきた。


「グリ…」


「ウル。腹、減っただろ?」



ウルは、ううんと首を振った。


そして、「お墓を作りたい」と言った。



俺は一瞬驚いたが、「そうだな」と笑ってウルの頭を撫でてやった。



ウルは金魚を大事にハンカチに包んで、愛しそうに手で包みこんで運んだ。





静かな、日の当たる場所に、二人で金魚を埋めた。


人があまり通らない、花がたくさんある場所。



「おさかなさん、さよなら」



泣くのを堪えながらそう言うウル。


えらいな、ウルは。



俺はウルを、優しく抱きしめた。


ウルは少しだけ、俺のシャツを濡らしてから…



「おさかなさん、ありがと」と言った。



「グリが掬ってくれた金魚だから、大事にしたかったんだ」


ウルは奮えた声で言った。




そうだったのか…。



俺は悲しかったけど、その言葉がすごく嬉しかった。


そしてウルを抱きしめながら祈る。



金魚、ありがとな。これからも俺がウルを守るから。心配すんなよ。




金魚が、
次は人間に生まれ変われますように。


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あきゅろす。
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