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Novel
金魚と罪
お祭りに行ったときの話。ウルがまさかの親切な行動を・・・

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一緒に夏祭りに行った。


二人で出掛けるのは久しぶりでドキドキしたけど、すっげぇ楽しかった。


ウルは相変わらず無表情だったけど、いつもよりはしゃいでるのが分かって安心
した。



ウルは甘いもの、香ばしい匂いのするもの、冷たいもの…
初めてのものをたくさん食べた。


『腹壊すぞ』って言っても聞かない…


それほどはしゃいでいた。表情こそは白けてたけど。




そんな中、俺は最後にウルに金魚を釣ってやった。




俺はそういう無駄な技術に長けていて、ひとつの最中で10匹も釣った。



対するウルは不器用で、 俺の方を指をくわえて見ていたから、俺は張り切って…




金魚の入った袋をウルに渡すと、目をキラキラさせてそのオレンジ色の生き物を
じっと見つめていた。


それが死ぬほど可愛かったから、俺は金魚を見るフリしてウルの顔をガン見して
いた。






金魚の入った袋を手に提げて満足そうに帰るウル。


でも帰る途中に、ガキが二人、泣いてるのを見つけた。
「どうしたんだろな」
と言いながらも近づくにつれ、聞こえる声。



「金魚にげちゃった〜」
「ぅわ〜ん」




「「………。」」



どうやら、
釣れた金魚が袋から飛び出してしまったようだ。


そしてしばらくしてウルが起こした行動に、俺は驚いた。



そのガキ共の前にしゃがみ込んで、
そのガキが持ってる水だけが入った袋を取り上げたのだ。


そしてその中に自分の持ってる袋から一匹の金魚を流し込んで……





それだけで俺はア然としていた。
あの人間嫌いのウルが…こんな優しいことするなんて、と。





更に驚いたのはその後だ。
金魚が一匹入った―――
つまりガキの袋を返すのでなく、六匹の金魚が入った自分の袋を返してやったの
だ。



「……。」



あんなに嬉しそうにしてたのに…見ず知らずのガキなんかにやっていいのか?



俺はそう思いながら、黙ってその光景を見ていた。



「今度は逃がさないようにするんだぞ」



ウルはそう言って僅かだが、口許を緩める。



いつもは俺がウルをガキ扱いしていた。
身長も低いし童顔だから。
それに時々子供っぽい仕草を見せたりもするし。



だけどガキの前にしゃがみ込み「大事に育てるんだぞ」と言い聞かせるウルはす
ごく大人に見えた。



まぁ、ガキ共が5歳以下だからウルが大人に見えるのも当たり前か。



「どういう心境の変化だ?」




再び歩き出しながら、ふと聞いた。


ウルはしばらく黙っていたが、前を向いたまま答える。




「別に…なんとなく。……という訳でもないか」


「どういう意味だよ」



うぅん、とちょっと唸ってから、ウルは「そうだな、」と続けた。








「今まで殺しすぎたから」


と。


「数えきれないほど殺してきたから…その分優しくしてやれば罪も軽くなるかと
…考えただけだ」






チク。



胸に棘が刺さったような、そんな感覚。



まぁ要するにただの自己満足だ、とウルはまとめた。



「馬鹿みてぇ」


「お前よりマシだがな」





でも、気持ちは解る。




俺も相当殺してきた。


しかもウルのように「使命」とか「責任」とかじゃなくて、ただ自分の快楽のた
めに。
飢えから逃れるために殺してきた。



けど気づいた。こいつと出会ってから。



殺してきた相手にも愛する奴、そして愛されている奴がいたのかもしれないのだ




だって仮にウルが誰かに殺されたとしたら俺はどうなるか知れない。



狂って狂って全てを破壊して、そして俺自身が壊れるまで暴れ続けるだろうから




俺達の罪は消えない。


消えることは無い。


だから俺と同じお前を愛することで、罪から解放されない苦しみを忘れていこう




それが許されるかは解らないけど。




「ぐり…手つなごう」


「・・・珍しいな、手ぇつなぐの嫌いじゃなかったのか?」


「うるさい。・・・つなぎたくなった」


ウルの小さな手を握る。



神様、
もう一度だけ----------


欲に従ってもいいですか・・・?






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