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Novel
夏の哀歌
短いです。他愛の無い話をしていた、いつかの二人のお話。
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「暑い・・・」

虚圏にも、夏が来た。


創られた太陽、創られた空、創られた蝉の声・・・

創られた世界に、グリムジョーとウルキオラは存在していた。


「グリムジョー、暑い。引っ付くな」

任務も会議も無い今日、
暑さに弱いウルキオラは裸にタオルを纏った格好のまま、
ひたすらソファでゴロゴロとしていた。

その細い体に引っ付く大きな犬が一匹。
それは窓の外一面に広がる空のような、水色の頭をしていた。


グリムジョーと呼ばれたそれは、
ウルキオラをタオルごと抱き締め、目を閉じて動かない。


「・・・グリムジョー」

「・・・あんだよ・・・うるせぇなぁ」

「重い・・・」

「てめぇが、そんなカッコで寝てるから悪ぃんだ」

「なんだ・・・それは」


呆れたように溜息を付き、水浅葱の向こうに見える天井を見る。
白い・・・汚れ一つ付いていない。何も無い。


時々、ウルキオラは不安になる。

自分は本当に存在しているのか。
グリムジョーは本当に、存在しているのか。

全て誰かが作った玩具ではないのか。
そもそもこの世界は本当に存在するのか。


今こうして二人で触れ合っているのは、本当なのか。


「またそんな顔しやがって・・・てめぇは最近、
俺といると時々そんな顔しやがるな」

「分かるのか?」

「いや・・・てめぇがそんな顔してるのに気づくだけで・・・
てめぇがそのちっちぇー頭ン中で捏ねくり回してる思考なんか、欠片もわかんねぇよ」

「・・・そうか」

ぎゅ、ウルキオラを抱き締める腕に力がこもる。
グリムジョーは、ウルキオラが時々するこの表情がどうにも苦手だった。
だから、見えないように。

ウルキオラの首筋に顔を埋めて。


「グリムジョー・・・俺は、お前は、本当にいると思うか?」

「はぁ?」


天井を見ながらのウルキオラの問いに、
グリムジョーは気の抜けた声を出した。

「俺と、お前と・・・こうして一緒にいることが・・・
今までやってきた事が誰かの嘘だったら、どうする?」

「要約してもう一回」

「これ以上どう要約しろと言うんだ・・・下衆が」


もういい、ウルキオラが目を閉じると、
グリムジョーの静かな声が耳に入って来た。

「・・・別に、本当とか嘘とか・・・どうでもいいんじゃね?」

「・・・」

「俺等が今本当にいなくても・・・俺はお前が好きだし」

「全く話が繋がってない。どういう理屈で」

「理屈なんかねぇよ・・・めんどくせぇ」

「・・・・・・」

「いいからもう、そういう事考えるのやめようぜ」


ウルキオラは、グリムジョーのこういう所が好きだった。
自分の真似できない考え方が好きだった。
理屈なんかは抜きで、何でもそのまま捉えられる所が好きだった。


だから。
自分達の存在が、今こうしている事が、事実であればいいと思う。


「お前は何故、俺にこうして引っ付いてくるんだ?」

「今度はなんだよ・・・好きだからだろ」

「お前は俺が好きなのか」

「ああ・・・あぁ!?お前も好きだろ?」

「分からない・・・多分そうなんだと思うが・・・
好きというのがどのような感情なのか不明だからな」

「いつも思うけどお前って頭の良い馬鹿だよな」

「黙れ」


この静かな時間だけでも・・・嘘でないならいいと思う。




「多分、クセ、みたいなもんだと思う」

「癖?」

「ああ・・・なんか、よく分かんねぇけど・・・
お前に触るのも話しかけるのも全部、俺のクセなんじゃねぇかって」

「グリムジョー・・・」

「ん?」

ウルキオラは、かぱり、口を開けてグリムジョーを見る。

「キス?」

こくこく、頷くウルキオラを見て、グリムジョーは苦笑いした。

「もうちっと色気のある強請り方とか・・・あんじゃねーの?」

ウルキオラの手首を取って、ソファに押し倒して。
誘われるがまま、グリムジョーは唇を重ねた。



なんとなく、ウルキオラはこの時間が好きだった。
グリムジョーの熱と、体温・・・
直接感じられて、少し安心するのだ。


ああ。
本当であるといい。嘘でないといい。

この感情が、「いとおしい」であるといい。


「な、もし俺達が本当にいなくても・・・
この世界が終わったら、俺達で新しい世界を作っちまおうぜ」

「お前の想像力にはついていけんな・・・」



でも、

本当にそんな事ができるなら・・・
今が嘘であっても、いいと思えた。


「あっついな、こんな時は寝ちまおうぜ」

「重いのだが・・・」

「あー・・・じゃあ逆になろうぜ」

体の位置を入れ替えて、バスタオルの塊がグリムジョーの上に乗る。

目を閉じた。
このまま目覚めず、二人の世界に行けたらいいと祈った。





そんな夏が、今は空っぽな虚圏にも、あった。

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