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公園のカップル


「カイ兄ぃ、怒らないでよぉ〜っ」

「……別に怒ってないよ」


カイ兄ちゃんとの買い物帰りにふとそんな声が聞こえて来た。兄ちゃんも気付いたみたいで二人してフェンス越しに公園内を見てみる。そこにはベンチに腰掛け会話をしている『KAITO』と『鏡音レン』の姿が。


「わっ、兄ちゃん見て!『カイト』と『レン』だよ!」

「本当だ。近くに住んでたんだね」


自分達の同機種の姿に少なからず興奮して見つからないよう木の木陰に移動した。
近所にボーカロイドは沢山いるけど同機種を見たのはコレが初めてで…。兄ちゃんは以前『KAITO』を所持してる人がマスターの友達いるらしく、ご挨拶に行った時に同機種を見たことがあるからか俺より幾分落ち着いてベンチの二人を眺めていた。


「だから誤解だって!落としたハンカチを拾って貰っただけなんだってばぁ!!」

「……ふーん、その割にはずいぶん熱心に帰って行く背中を見てたね?確かにすごくクールで格好いい人だったもんねぇー」

「か、カイ兄ぃ〜っ」


二人の会話を聞いてるともしかしてあの子達も付き合ってるのかな?って思った。だって会話からしても、『レン』が落としたハンカチを拾ってくれた人がすごく格好いい人で、『カイト』がそれを見て嫉妬してるようにしか見えない。
あの『カイト』さんも切れ長の瞳でスレンダーな体型ですごく格好いいのに。どれだけハンカチを拾ってくれた人がかっこよかったんだろうって思考を巡らせた。


「あの『カイト』さんも格好いい人なのにねー」

「ぇ、レン、僕は?」


「兄ちゃんは可愛い」


聞かれた言葉にそう返せば見るからに落ち込むカイ兄ちゃん。でも兄ちゃんは絶対可愛い系だと思う。
長いまつげに白い肌。顔立ちはどちらかといえば美人系な感じだけど、普段からちょっと抜けてて天然なところがあるからか『可愛い』の印象の方が強い。


「うぅ…っそれを言ったら僕だってあの『レン』君可愛いと思う!」

「!!兄ちゃん!俺は!?」

「……レンの方が可愛い」


いや、それはないよ…と思わず苦笑いを浮かべてしまった。だってベンチに座ってる『レン』は一見すれば女の子に間違えそうなくらい可愛い顔をしてるんだもん。俺より華奢そうだし声も幼いし喋り方も可愛いし…。何処からあの『レン』より俺の方が可愛いという結論に至ったのかが分からない。
あんなに可愛い『レン』と比べられたんなら格好いいと言ってくれるんじゃないかと期待しただけにちょっと不機嫌にもなった。



「カイ兄ぃ〜っお願いだから拗ねないで?」



今なお喧嘩してる『カイト』と『レン』に視線を向ける。喧嘩というか一方的に『カイト』が『レン』の話を聞かないようにしてるだけなんだけど、きっと普段は仲が良いんだろうなって思った。
『カイト』は些細なことで嫉妬しちゃうくらいあの『レン』のことが好きで、『レン』も又。必死に誤解を解こうと奮闘するくらいあの『カイト』のことが好きなんだろう。別の家の二人だけど、同機種の二人が付き合ってることが何だかすごく嬉しかった。だって『KAITO』と『鏡音レン』は仲が良いんだって見せ付けられた感じなんだもん。
まぁ、俺はカイ兄ちゃんに謝ったら直ぐに許して貰えるけどねーと自慢にも似た優越感が沸いてきて「俺も性格悪いなぁ…」とちょっと反省。

ふと兄ちゃんを見上げて見たら向こうも苦笑いを浮かべてて…。もしかして同じこと考えたのかな?って首を傾げたら俺の視線に気付いた兄ちゃんが目元を緩めてふわりとした笑顔を向けてくれた。
うん、やっぱりカイ兄ちゃんは優しい。
そんな優しいカイ兄ちゃんが大好き。と、俺も笑みを返した。


「……別に拗ねてない」

「拗ねてるよぉー、こんな所で拗ねられてもこっちが困るっていうか…」


あの『レン』君もやきもちやきの『カイト』さんで大変だなぁー…なんて。再び優越感に浸りそうになった自分に反省。



「へぇ〜、じゃあ何処で拗ねれば良いってゆーの?」


「―――そんなの決まってるじゃん」



凛とした声が響いたかと思えば『レン』がぶすくれてる『カイト』のマフラーを掴んで引き寄せ、耳元にそのぷるんとした可愛らしい唇を寄せた。


「どうせ拗ねるなら俺のベッドの上で拗ねてよ…」

「っ!?」

「全身で慰めてあげる」


そう言うと引き寄せた耳をペロリと一舐め、「ひぁ…!」と高い声を上げて身体を離した『カイト』を。まるで獲物を前にした獣のような瞳で捕らえる。


「こ、この…バカレン…っ」


困ったように。怯えたように。舐められた耳を手で押さえる『カイト』だが、その声と赤くなった顔は何処か期待に満ちていた。



……………。



え!?そういうカップル!!??覗き見ていたレンとカイトの心境が一つとなった。















「おかえりー。ん?二人して暗い顔してどしたん??」

「い、いえ…あの……」

「………なんでもないよ」


あれから。カイトは自分より圧倒的に格好いい『カイト』が受けをしていたことに。レンは自分より幼い風貌の『レン』が攻めをしていたことに動揺を隠せず、二人して気まずい空気を漂わせていたという。



END.


カイレンカップル、レンカイカップルを発見する。


20110413


あきゅろす。
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