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隣のリンちゃん
晴れ渡る空の下。家からちょっと離れた、でも一番近い公園に二つの黄色の姿があった。
一人は髪を頭上で結い上げた少年、レン。…もう一人は、


「レーン!行くよー!!」


頭に大きな白いリボンを飾った女の子―――『鏡音リン』である。
今までの作中には描かれてなかったが、ちゃんとこのレンにも対である姉のリンが居る。それが何故、レンの家に一緒に住んでいないかと言うと。

…実はこの双子はレンのマスターとリンのマスターであるお隣りさんが割り勘で買ったボーカロイドなのだ。
お隣りさんは相当のリン廃様でいらっしゃり、鏡音リンを知った時から欲しくて堪らなかったそうだが、何せお値段が少々お高いVOCALOID。なかなか手を出せずにいた。同時期。レンのマスターもまた、『カイト一人だと寂しそうだな…』と新たなVOCALOID購入を考えており、元々顔馴染みだった二人は利害が一致したこともあってお金を出し合い、購入したのだ。
勿論二人でワンセットな鏡音ツインは最初は別々に暮らすと言われ嫌そうな顔をしたが、お隣りさんとして暮らすだけだと知ると渋々了承した。特にレンは隣と聞いても嫌だと駄々をこね続けたのだが、マスターの説得と、何より一緒に暮らすことになったカイトに……まぁ、一目で憧れちゃったワケですね。
その後はお互い何事もなく暮らしに馴染み、互いの家に会いに行ったりこうして一緒に公園で遊んだりする。14歳というまだまだ遊びたい盛り。勿論遊びもボール投げや遊具遊びを…


「うおおおおお!!滑空飛び蹴りぃぃぃーーー!!!」


ダンッとリンは地を蹴り上がると重力による下降を利用して上空から足を突き出す。


「うぐッッ!!!」


足は見事にレンの腹を打ち、呻き声を上げるも弟は倒れず堪えた。
蹴りを喰らったレンは腹を押さえ、目に少々涙を溜めたが嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「す、凄いよリン!これならマスターから完全に逃げられるかも!!」

「んーん、残念ながら100%とは言えないんだよねぇ〜威力は申し分ないんだけど隙が大き過ぎて」

「…そっかぁ」


喜びも束の間。二人ははぁ…と溜め息をついた。

失礼。この二人に可愛らしい遊びなど以っての外だったようです。何せこの二人のマスター、一人はド変態。もう一人は超リン廃。日頃からマスターによるセクハラを受ける双子はこうしていかに変態を退けるかの技を考え、構成し、それを実行しなければならないのだ。レンがマスターを退けるのに飛び蹴りを使用しているのも実はリンから伝授されたモノなのだ。


「やっぱキックだけだと駄目ね。次からは拳を取り入れた技も考えよ!」

「そうしよう!」


キャッキャッとはしゃぐ双子は端から見たら可愛らしいが、その内に秘めたるはどんな武道派だよと聞きたくなるぐらいに燃え上がっていたり。


「…ん?」


そんな時、リンは公園の外に目を向ける。


「ねぇ、あれ。レンとこのカイ兄ちゃんじゃない?」

「え!?」


リンの言葉を聞き、レンもそちらに目を向ける。見れば確かに『KAITO』の姿。しかも顔立ちも体型もまごうことなきレンの兄であるカイトで―――。


「兄ちゃあーんっ!!」


一々確認せずとも本能で兄だと分かったレンは嬉しそうにカイトへ駆け寄る。カイトも驚いたようだがレンの姿に微笑んでいて……リンはやれやれと苦笑した後、二人の元へ駆け寄った。


「リンちゃん、こんにちは。」

「こんにちはカイ兄ちゃん!いつもレンがお世話になってまぁーす!」

「ちょ!子供扱いしないでよ!!」


キャイキャイ言い合う二人を見、微笑ましさにカイトは笑みを浮かべる。彼にレンを取られたのはちょっと悔しかったリンだが、そこはやはり双子。似た感覚を持つリンもいつも笑顔で優しいカイトを嫌いになれなかった。レン程の恋愛感情はないが、彼の事は『お隣りの優しいお兄さん』として慕っている。
ふと、リンはその彼の手に抱えられている4つものビニール袋に目を向けた。
袋から覗く食材や日用品を見、カイトが買い物帰りなのを悟る。


「わ、凄い荷物!」

「一気に無くなっちゃうからね。日用品は買い溜めして、こっちは今日の夕飯。それにパンとお菓子と…」


相当重たいだろうに笑顔を崩さないカイトは華奢そうに見えてもやはり男の人。体型だけでは分からないなかなかの力強さを感じた。それでも沢山の荷物を持っている事に変わりなく。思ったとおり、レンが右手を上げる。


「兄ちゃん!俺、荷物持つの手伝うよ!」

「え?」

「あ、じゃああたしも手伝うー!」


ハイハイ!と手伝う気満々の二人の可愛らしく優しい姿に嬉しそうにカイトは微笑み、


「ん、ありがとう二人共。じゃあレンはこれ。リンちゃんにはこれを持って貰おうかな?」

「ハーイ!」

「!」


それぞれに袋を手渡した。
手伝いを許可されたレンも嬉しそうに返事を返し、リンは袋を持った瞬間、驚いたように目を開く。
再び帰路へ付いたカイトの後を追い、こそっとレンに話し掛けた。


「カイ兄ちゃんってやっぱり優しいね」

「え?今更じゃない」

「んー…そうなんだけどさ、」


リンは自分が持たされた袋をレンの目の位置まで持ち上げる。


「この中パンしか入ってなくてすごく軽いよ?」

「え!?」

「たぶんレンのも軽いのしか入ってないんじゃない?」


言われたレンも急いで袋の中を覗き込む。お菓子ばかり…確かに軽い物しか入っていない。

次いでカイトが持っている袋に目を向ける。袋の口から僅かに見えるのは牛乳パック数本にキャベツやお肉などの食材。左手の袋には入浴剤や詰め替えパックなどの重たそうな日用品がこれでもかと詰まっていた。


「中性的な見た目だけどやっぱ男の人って感じだね、レンが好きになるの分かる」


手伝うと言った自分達の気持ちを踏みにじる事なく、かと言って重たい物を運ばせる事もなく。さりげない紳士的な気遣いは確かに憧れるモノがあった。
が、レンに取ってこれは一大事なのだ。普段から家事を余儀なくされているカイトは意外と重労働なそれを毎日こなしている。もう慣れてると言われてもやはり大変なのに変わりはなく、だからこそ手伝ってその負担を少しでも減らしたいと思っているのに。
これでは意味がないではないか!


「カイ兄ちゃん!俺そっちの袋持ちたい!!」

「へ!?」


前方を歩いていた兄に駆け寄ったレンは彼の右手に持たれた食材入りの袋を指差す。当然カイトは驚いて間の抜けた声を出した。何せ中は食材に牛乳パック。レンには重過ぎる。
が、彼のやる気満々な瞳に『駄目』なんて言えるはずもなく。


「お、重いよ…?」

「大丈夫、大丈夫!まかせて!」


取り敢えず持たせてみる事にした。







「〜〜〜っ!!(ううぅぅうっ)」


案の定。かろうじて持ち上がりはするが一歩一歩が何とも覚束ない。
ヨタ…ヨタ…が似合いそうなぐらいゆっくりとした歩幅は3歩進むと破かないようにそっと袋が地面に置かれ、再びヨタ…ヨタ…と歩き出す。
体格差があるにしても同じ男とは思えない情けない姿にリンは弟を凝視した。カイトもまた、困ったように苦笑している。


「…レン〜悪い事言わないから諦めようよ」

「う、うぅ…っ」


ついに放たれたリンの痛恨の一言にレンはグサリと何かが突き刺さるような感覚を感じた。それが『お前には無理』という意味合いの痛みだと分かると情けなさ過ぎて涙が出てくる。
それでも袋を離そうとしないレン。せっかく兄の手から離したのだ。易々と返したくないのだろう。


「レン、」

「…っ」


カイトはレンの袋に手を伸ばす。
負担を掛けたくないのに、これを返せば絶対負担になる。でも自分にはそれを軽減出来る程の力はなくて…でもやっぱり返したくなくて…。ついにカイトの手に袋の持ち手が掛けられても、レンは嫌々と首を振った。


「レン…」

「っ、」

「……持ってて良いよ?」

「ぇ?」


聞き間違い?そう思える程意外な事を言われたレンは驚いてカイトに目を向けた途端、袋の重みが軽くなる現象が起こる。
いや、気のせいではない。反射的に下に目を向ければ、そこには取っ手を持つ自分の手と…

兄の手。



「あ…」

「重いなら一緒に持てば良いんだよ」



ね?そう微笑むカイトの表情はとても優しくて…。確かにこれなら自分も助力出来て負担にならないかもしれない。
手伝えた事と兄の笑み。その両方の心地良さにレンは顔を赤らめる。


「…!」


突然、すっとカイトの右手も軽くなる。そこには左手でレンの袋を一緒に持つため持ち替えていた日用品の袋が握られているはずだった。
日用品がいきなり軽くなるなんて有り得るはずがなく。右を向けば、そこにはリンの姿。


「重いなら一緒に持てば良いんでしょ?」


してやったりな表情をするリンに自分の台詞を言われ、気恥ずかしさにカイトも頬を赤く染めた。
その後、三人は仲良く帰路へと歩みを進めたのだった。



end.


(お兄ちゃんか…良いなぁ…)

あたしもマスターに頼んでみよっかな?


続く
当家のリンちゃんは男前。


20101221


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