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逆ナンパ




第一印象は、かわいいだった。






「あのっ!よ…良かったら僕と、お茶…しませんか?」


もちろん俺は『はぁ?』と思いながら顔を上げた。なんとなく外に出てプラプラして、でも結局暇になったから入ったこともない店の前でスマホを開いて誰か空いてる奴いるかな〜?と思っていた矢先のこの言葉。

顔を合わせれば予想よりもずっと綺麗な顔がそこにあった。今までの明らかにチャラそうな男とか息を荒くした脂汗垂れ流してるおっさんなんか比べものにならないくらいずっとずっとマシな人。すごい中性美人だ。よく思い返せば声も結構高めだった気がする。あまりの性別迷子に一瞬女性を期待したけれど、着ている服がメンズであることと先程新たに記憶されたばかりの言葉に『僕』が入っていたことを思い出して期待は呆気なく散っていった。そのブランド良いよね、俺も愛用してます。
目の前の人が男性だと確信して俺は溜め息を吐く。こうして男に声を掛けられたのはこれが初めてじゃない。中性美人と言っておきながら俺も立派な中性顔。いや。寧ろ女顔であることは自覚している。

学園アイドルである姉と一卵性双子として生を受けた俺は当然アイドルと同じ顔。この顔に引き寄せられた馬鹿野郎どもにナンパ、告白、ストーカーと散々な目にあってきた俺はこの手のことにはもううんざりしていた。中学に上がってちょっとは体格も良くなったというのに未だ俺を女のようにか弱いとかお姫様とか言ってくる学校のクラスメイト達。友達ですらそう思ってるんだから見ず知らずの他人にそんなことされたら嫌気が指すのは当然だろう。
例の如く手酷く断ってやろうかと思った。こちとら何度も同じ目に合わされて性格はすっかり歪んでるんだ。今更遠慮する必要なんてない。俺は男だ、馬鹿じゃねぇの、目腐ってんのか。罵声の言葉はたくさん浮かんだ。でも俺は、それらの言葉を何一つ言えなかった。

今回ナンパしてきた馬鹿野郎。俺と目を合わせないようにしている様子が何とも不思議だった。今までの断らないという自意識過剰な自信にギラギラした目を向けてきた奴らと違い、その人はずっと視線を下に向けて不安そうにしている。始終真っ赤な顔にキツく握られた拳はどれだけ緊張しているのかを物語っているみたいで…。


馬鹿なのかお前。そんな緊張するぐらいなら声かけんなよ。


なんでそんなに顔真っ赤なんだよ。りんごみたい。


…ぁ。ちょっと視線が動いた。目が合ったら慌てて逸らされた。少し瞳がうるうるし出したのは俺の気のせい?


深い深い紺碧の瞳が涙の膜で揺れる姿はまるで海のようで…。綺麗なその色に、俺の心臓がとくりとくりと音を立てる。

なんだ、こいつ、かわいい。



「ぃ、いですよ」

「ほ…本当ッ!?」

「ん。どーせ暇ですし」



生まれて初めて出したOKの返事に中性美人は頬を真っ赤に染めたまま嬉しそうに極上の笑みを浮かべてきた。

…なんだこいつかわいいッ!!!



END.


お互いに一目惚れ。


20130131


あきゅろす。
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