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途絶えた心@




『喜』…喜ぶ




『怒』…怒る




『哀』…哀しむ




『楽』…楽しむ





基本的な四つの『感情』。










貴方は今、どんな『気持ち』ですか?














「心がない人間??」


その日、今朝から間の抜けた声を上げたのはオレンジの髪をした少女だった。
彼女と話をしている父親は、その返事には不釣り合いに真剣な顔をして続ける。


「そうだ。その子には『心』がない…」

「そんな人間……いるの??」

「じゃあ父さんが会ったあの子は幻か何かか?」



そこまで言ってないけど…と少女は渋る。が、それは当然の事だ。


『心』がない人間など…。想像出来る人は相当右脳が働く頭をしている人だけだろう…


彼女は自分の頭をフル稼働させて想像してみるが、思いもつかない。
想像して想像して出来た人物像は『全く笑わない、喋らない、動かない、人形みたいな人』だった。


「人として生まれたのに、人に与えられた『感情』を、その子は感じることが出来ないんだ…」

「…お父さん。『感情』は人間にしか与えられたものじゃないわ。ならなぜ犬は尻尾を振るの?」

「ハハハ、そのとおりだ。つまりその子は犬にも当然分かる『喜び』を感じられないことになるな」


そう言われると…少女は無償に『その子』が可哀相になってくる。

『心』のない人間など不気味で仕方ない…。仕方ないが、その子は人に与えられることを許された『笑顔』も浮かべられないのだと…




「お前ももう14歳…。そろそろ本格的な仕事をして貰おうと思ってな…」




そういうと彼女の父親は戸棚から一枚の地図を渡してきた。


「彼のケアを、お前にやって貰いたい」

「…私が?」

「お前になら…治せると思うんだ」

父親は最後まで真剣な眼差しで話を進めた。




「名前はカオル君だ。引き受けてくれないか、……ルナ」




ルナと呼ばれた少女は少し考える素振りを見せ…


……………小さく頷くのだった。
















「……と、引き受けたものの…」


つい先程のことを思い出しながら進むルナ。


「なんで森の中に住んでるのよ…」

ため息を吐き、辺りを見渡す。
ゆけどもゆけども木。木。木。彼女の口にした『森の中』であることは明白だった。

先程まで手にしていた地図も、綺麗に折り畳んでポケットに仕舞われているあたり…




「…………迷っちゃった;;;」




ルナは再びため息を吐いた。



何となく予想はしていたが、確信に変わるともう歩くことさえ面倒臭い。

ルナはその場にへたり込む。

こうも深い森の中を地図があるとは言え迷わず行くのは都会育ちの彼女には不可能に近かったのだ。


森の中一人ぼっちは心細い上、都会っ娘であるルナを不安にさせるには十分だった。


まさに窮地…。どうしようと途方に暮れていた、その時だった―――






「―――誰かいるのか?」


「!」




背後から聞こえた声。ルナはバッと後ろを振り返る。
背後にあった茂みが揺れ…


「た、助かった!!すみません、私道に………!」


現れた人物に、ルナは目を見開いた。



さらりと揺れる黒髪…
癖のないそれは、短髪であってもとてもしなやかであると分かる程に艶がある。

曇りのない深い茶は何処かの高級な宝石をそのまま埋め込んだかのように美しい色で長い睫毛が優しく覆う切れ長の瞳。


『容姿端麗』――そんな言葉を並べて足りるか…?


目の前にいる彼の姿は――。




(……綺麗…)


後ろにいた少年を見て初めに出た感想はそれだった。
これは……人間が生み出せる容姿ではないのではないか…という程に…。





………………












「…貴方『天使』ね?」


「…………は?」



ルナは真顔で言った。



「だってそうじゃない!私が道に迷って途方に暮れている時にさりげなく現れたはかなさ…おまけにその綺麗過ぎる容姿!!とてもじゃないけどどんなに整形したって遺伝DNA操作出来るようになったって生み出せるレベルを完全に越えてるわ!!!」

「…意味が分からないんだが」

「でもごめんなさいね天使さん。私はまだこんな所で死ぬ訳にはいかないの!!お迎えならあと80年ぐらいは待って!!」

「いやだから意味が分からん」


なおも続けるルナに、少年はどうしたもんか…と考える。
取り敢えず目の前にいる少女は本気か冗談かは分からないが自分を『天使』だと言うのだ。

まずはそれを訂正させよう…。


「…悪いが俺は天使でも何でもない。人間の母親の腹で生まれた時点で人間の生を受けている」

「ぇ、秤R!?その顔遺伝で作れるの!!??」

「……遺伝で作れちゃいけなかったか?」


へぇ〜…と興味津々な様子で少年を見るルナ。
作れるもんなんだぁ…と先程から初対面の相手に対して失礼すぎる言葉を言い続けるが、それほどまでに彼の容姿は綺麗過ぎるのだから仕方ない。とルナは思う。

『カッコイイ』『綺麗』『素敵』…どんなに褒め言葉並べたってこの顔の美しさを表現しきれないのではないか…?



「…取り敢えず。お前さっき道に迷ったと言ったな?俺はこの森のことを熟知しているから、良ければ案内するが…?」

「ぇ、本当!?」


それは願ってもいないことだとルナは立ち上がる。
容姿端麗な上に優しいなんてどんだけ素敵な人間なんだと瞳を輝かせて…。



「じゃあ聞くわね。この辺りに住んでるカオルって男の子の家に行きたいんだけど…」


「…………ぇ?」



道を聞いたルナの言葉に少年はきょとん…とした顔をした。



「え?え?何、どうしたの??」

「いや…カオルは俺だから。……少し驚いただけだ」

「………え!?」



言われ、ルナはまじまじと少年を見る。

先程から会話しているこのイケメン君が、『心』のない少年…私の患者さん…その名は『カオル』。





「……(なんか、)」





めちゃくちゃ普通じゃない?










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あきゅろす。
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