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FATE【6万キリリク】:二人の大将の休暇【完】
B†夜の会† 4頁
その後、クレースとフォアナックスを含め、十人ぐらいの兵士がテーブルの周りに集まった。食器や道具の場所をよく知っているクレースは、台所にフォアナックス大将の酒の容器を持ってきた。しかし、彼はある異変に気付き、フォアナックス大将に問いかけた。

 「フォアナックス。杯が一個足りぬ。普通、この棚に十個入っているはずだ。割れたか?」

 
 その質問にフォアナックス大将は答えに戸惑った。無くなった「杯」の持ち主の事を思い出したから。

 「俺は飲まぬから、大丈夫。後ろの棚にはまだたくさんある」

 結局土帝国の大将は、『行方不明の杯』について何も答えなかった。

 飲まないと答えたフォアナックス大将だが、クレースは後ろの棚からもう一つの紫色の杯を持ってき、友人に渡し、言う。

 「一杯だけだ。それ以上飲みたくても、俺が止めてやる」クレースは答えを待たずに、フォアナックスが持っている杯に酒をなみなみと注いだ。

 すると、クレースは周りの部下に告げる。

 「お前ら、今日の料理はあの幻の土のイノシシだぞ!フォアナックス大将に感謝しろ!」

 「おおおおお」という歓喜がクレースの部下から上がってきた。

 「これを食って、力を湧き上がって、五日後、一瞬でアイツらを始末しろう!いいな!『我が帝国の為に』乾杯!!!!!!!」クレースは元気そうで、乾杯の音頭を取った。


 周りが「乾杯!」といい、一気に飲んだ。一人だけ飲んでいないのは、フォアナックス大将である。


『我が帝国の為に』その言葉が心の底まで響く・・・

杯を交わしたあの日の事が頭の中に再生する・・・

 
 そのおかしな様子を見たクレースは友人の肩を叩き、冗談のようにからかった。

 「おい、フォアナックス!一杯しか飲めぬから、そんなに惜しいか!?」

 
 自分の行動に気付いた土帝国の大将は、正気に戻り、誤魔化すように微笑み、言う。

 「我が帝国の為に」土帝国の大将は一気にその酒を飲んだ。 


 あの夜、クレース副大将と部下らが朝まで飲んでいた。途中で抜けたフォアナックスは奥の寝室に戻り、手の中では紫色の杯を持っている。

 
 フォアナックスは真っ暗な外を眺めながら、杯を見詰める。別の帝国でこの杯と同じ形の持ち主は、その杯をどうしたのであろう。

 ただ地面に置いただけで、去った土帝国の大将は、その後、ワーヤス大将はその杯を拾ったか、もしくは、怒りで投げてしまったか分からない。


 紫色の杯を置いてから、毎晩寝る前にフォアナックス大将は、この杯を手にしながら、水帝国の大将を思い出す。


 一方、南部の町から中央部にある家に帰って来たワーヤス大将は、二階の大きい寝室へ行き、着替えをした。

 しかし、寝る前にワーヤス大将は大きい寝室から出て、客用の個室へと向かった。


 ベッドの上には、フォアナックス大将があの朝に忘れていた紫色のガウンが置いてある。一階にある金色の鎧兜は呼び戻されただが、このガウンを忘れたか、わざと残したか分からない。


 ワーヤス大将はベッドの上に座り、隣にある棚を開き、中から紫色の杯を取り出し、見詰める。


相手は何を考えているか分からない・・・

だが、土帝国の大将の『好き』という言葉は嘘じゃないと思っている・・・


 (別の形で出逢ったら、良い友になるかもしれぬ。嫌、別の立場だったら、もう会えないかも)とワーヤスが思う。

 初めて出会った時に、兵長の彼は二等兵のフォアナックスを助けた。この関係が無ければ、出会えなかろう。あの日、兵長は彼でなければ、フォアナックスの命はもうないかもしれない。


 「これは『運命』だから。認めろか・・・」ワーヤス大将は自分と呟き、紫色の杯を棚に戻す。


 フォアナックスと身体を交わす前に、ほとんどこの個室に来なかったワーヤスは、あの夜の後、毎日寝る前にこの個室に来、あの夜の事や色々なことを独りで考え込む。

 
 その後、ワーヤス大将は個室から寝室に戻り、いつも通りに家族の絵に挨拶をし、寝国へ去る。


==4月21日更新==
==FATE[6万キリリク]『二人の大将の休暇』==【完】


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あきゅろす。
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