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FATE[番外編]:二人の大将【完】
†C二人の行方1頁†
太陽が昇った間もなくのことであった。

扉が強く叩かれ、「ワーヤス大将!緊急事態です!早くお城へ!!」という声が聞こえた。

昨日の疲れのせいで、ワーヤス大将の今日の寝起きが悪かった。


 隣に彼より二百四十歳年下の土帝国の大将が添い寝している。藤色の目は開いており、彼もその呼び声で起こされた。


 隣の人に何を言うよりも今大事なことは外で待っている兵に答える。

 「何だ?緊急事態は?」ワーヤス大将は大声で聞き返しながら、すぐ起き上がった。だが、水帝国の大将の回復力は攻撃力より弱い為、昨夜の痛みは腰に若干残っている。



 ワーヤス大将は、この痛みのきっかけになった者に振り向け、視線で相手を叱る。

 (クソ!今日一日、城中歩き回らなきゃならないのに!)


 しかし、叱られた相手はその視線をわざと無視した。あと一時間ぐらい寝たら、この痛みは完全に治るかもしれないが、ワーヤス大将はもう休む時間がない。


 「おい!緊急事態は何だ!?早く答えろ!」その部屋にある棚から軍の制服を取り出し、着替えながら、さっき質問した兵の返事が無いため、もう一度問う。


 一方、フォアナックス土帝国の大将も新しい制服を呼び出し、着替え始める。

 家の玄関で待っている兵の言葉がのどに詰まった。

 「姫様が・・・カリナ姫様が・・」最後の言葉だけは口から出なかった。それで、再びワーヤス大将に問われると、ようやく事実を語った。

 「カリナ姫様がバーナッド土王に殺されました!」

 

 その言葉を聞いた二人の大将は一瞬固まった。頭の中でその報せが繰り返す。

 「王!!!」フォアナックス大将は自分の主のことを非常に心配になり、ワーヤス大将に何も言わずに、部屋からすぐいなくなった。


 恐らくすぐ水竜殿に入ったであろう。フォアナックスのような強い力を持っている者は、水帝国の城の結界を通せるとワーヤス大将が思う。以前の炎帝国の城の結界のように。


 「今、俺が直接に城へ行く!!」とワーヤス大将が返事し、土帝国の大将の次に部屋から姿が消えた。


そこで待っているのは、悲劇の真実。

カリナ姫様・・・可愛いカリナ姫様・・・我が姫君・・・

 自分が家に戻らなければ、こんなことが起こらないかもしれないとワーヤス大将が自分を責めた。更に、姫様が殺された時に自分が何をしていたかと考えたら、自分を許せなくなった。


殺人犯人の大事な側近と身体を交わし、更に、一緒に添い寝していた・・・

自分が一番許せない・・・



 その夜、 死刑を受けたバーナッドが監禁されている牢屋の近くに、ワーヤス大将は一瞬見慣れた影を見かけた。それは『フォアナックス土帝国の大将』であった。


 たった一晩で立場が全く違う。昨夜は『お客の側近』、今は『敵の側近』となった。




 城の裏側まで侵入で入れたのは、フォアナックス大将が自分の気配を消し、姿を見えないように力を遣っているから。ただ、何千年も戦っていたワーヤス大将にとってそれは無意味である。


 「この近くにうろうろしているのは控えて頂きたい」ワーヤス大将はいつもの丁寧語に戻った。表情はいつも以上に冷たい。

 「ワーヤス大将」誰かに見付かられたと思わなかったフォアナックス大将は、相手の名前を呼んだ。土帝国の大将の顔は真っ青な顔になっている。


 それは見付かられたからか、主である土王のことを心配しているか、ワーヤス大将は分からないが、今は相手をここに居させるわけにはいかない。


 「ご存知のはずです。この牢屋から『誰か』を脱出させるのは無理です。重罪犯人ですから」とワーヤスが相手に忠告した。


 すると、フォアナックス大将は大声で主の代わりに否定する。

 「王はあのようなことをされません!」

 「しかし、あなたの王は御みずから殺したと仰いました。あなたも聞いたはずです」とワーヤスが即答した。

 四王の近くにそれぞれ自分の大将が傍にいる。姿を見せるか見せないかだけであった。今日国賓室では四人の大将が揃ったが、姿を見せたのはワーヤス大将だけであった。

 
 「それは必ず何かの間違いです!王は長年アルタイル様に強い愛着を抱かれるかもしれませんが、あなたの帝国の姫君を殺害するまでは絶対になさいません!」

 フォアナックス大将はまだ負けずに、一生懸命理由を取り上げたが、それは自分の落とし穴となった。



 ワーヤス大将はその言葉を聞くと、怒りに満ちた声で問う。

 「お前・・・知っていたのか?」丁寧な言葉さえ使わなくなったぐらい水帝国の大将の怒りは伝えてくる。

 「はい。昔から」フォアナックス大将は正直に答えた。

 「昨夜・・・そのために俺を誘ったか?」相手がこんなことが起こると知りながら、自分を誘ったではないかとワーヤス大将が考えた。


 それを聞いたフォアナックス大将は慌てて拒否する。

 「違います!それは私の意志で誘いました!」




 すると、ワーヤス大将の顔に笑みが浮かんだ。以前見たことがあったこの非常に冷たい笑み。自分の仲間がフォアナックス少佐の罠に掛かった時と同じであった。いや、それ以上、冷たく恐ろしい。


 「なぜ言い訳を言う?戦場では騙された方が悪いから。もっと喜べ」満面な笑顔で笑いながら喋っているように見えるが、ワーヤス大将の身体から殺気が広がる。


 今一番大事は相手の誤解を解くこと。フォアナックス大将はワーヤス大将を見詰め、真剣な声で告げる。

 「ワーヤス大将!昨夜のことは『俺』の本気だ!あなたを抱いたのはあなたが好きだから!」


いつもと同じ真っ直ぐで迷わず藤色の瞳・・・

そして・・・初めの「好き」という言葉・・・



 ワーヤス大将はくすくす笑い、相手の顔を見やった。次の瞬間、鋭い短剣は土帝国の大将の首に突きつける。

 「二度は無い。さっさと我が帝国から出て行け。これ以上俺を怒らせるな」と土帝国に言い付けた。


 二度とは、騙されることか、身体を交わすことか、どちらを意味しているのであろうとフォアナックス大将が思う。また、今の状態はいくら説明しようと無駄だと分かり、土帝国の大将は大人しくその場から去る。

 「では、失礼します」礼儀正しい言葉とお辞儀をし、地面に姿を消した。


 
 相手の気配はないと確認したら、ワーヤス大将は独りで呟く。
 
 「昨夜は『お前の本気』だったぐらい、俺だって分かるさ・・・だから『次回』と言った」


 水帝国の大将は土帝国の大将を責めなかった。たとえそれが罠のであれば、責任は掛かった彼にあるから。それが兵の規則である。


 昨日は罠であるかどうかは分からないが、フォアナックス大将の瞳だけワーヤス大将は、自分の解釈に自信を持っている。


 長年生きており、結婚もすれば、あの迷わない愛に溢れた藤色の瞳を見れば、『本気』ということが分かった。


見詰められた己さえ忘れてしまいそうな熱い眼差し・・・


 抱かれるのはあまり好まないから、抱く側になれば、相手と身体を交わすことも悪くないと思った。


 残念ながら、土帝国の大将と彼は『生まれ付きの敵』である。二度とあのような触れ合いはなかろうとワーヤス大将が静かに思い、見回りに戻った。


 
 二人の大将の対決は早くも次の日に訪ねた。自分の王を助ける為に、水帝国の広場に現れたフォアナックス大将。ワーヤス大将も水帝国の大将としてそれをさせてはいけなかった。


 一方、土帝国の大将の主もそれを望まかった。二人の大将の本格的な対決が始まる前に、バーナッド土王は一番親しい側近を帰らせた。


 その時のフォアナックス大将の藤色の瞳を見れば、切なさと哀しみがワーヤス大将まで伝わってきた。

 無論、その場で誰よりも土帝国の大将の気持ちを理解できるのは、ワーヤス大将である。


王の命を救えない大将はこの世にいるか・・・

王の命を見捨てた大将はこの世にいるか・・・

だが、命令が絶対である・・・

擦れ違い主と部下の想い・・・

その気持ちを分かっているのは、同じ立場の者である・・・

==1月28日更新==


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