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FATE【BL】
第46話 4頁
敗北・・・

 ラーカインの口からこの言葉が聞こえると思わなかった。

 誰よりも傲慢で無慈悲な炎王。敵なら容赦なく斬る。こんなラーカインは自ら敗北の味を味わったという。冗談話にもならない。


 それに『カリナの葬儀の前に早く片付けてやりたかった』という言葉は、レイサックの心まで響く。不思議のように怒りは収まり、涙も止まった。


ロスと呼ばれたからか?…

 
 「話してくれるか?」怒鳴りと同じことの繰り返しだが、さっきより冷静になったレイサック。

 
 ラーカインはもう一つ溜め息を付き、告げる。


 「長くなる。まず、座れ。お前らもだ。どうせ、話すことがあるだろう?」

 ラーカインはレイサックに告げてから、四人の大将を見やった。

 
 そう言われ、レイサックはその場にいる一人の兵士に視線を送った。すると、その兵士は周りの兵士に何かを告げ、あっと言う間に王族用の椅子が四脚運ばれた。また、三人の大将の椅子も準備された。


 国賓室の真ん中で、三日月の形に並べられた椅子は、王の椅子の方向に向いている。それ以外の水帝国の者は、国賓室の右と左側に立っている。

 
 「俺とワーヤス大将の椅子も準備してくれ」

 その命令を受け、あの兵士は一瞬戸惑った。いつものなら、王であるレイサックは王の椅子に座り、ワーヤス大将はその近くに立つ。


 ワーヤス大将の椅子に関しては理解できるが、レイサックが椅子を求める意味がよく理解できなかった。それでも、命令に従い、もう一つの王族用の椅子とワーヤス大将の椅子を持ってきた。

 レイサックは、王の椅子に座らなかった理由が二つある。

 一つは、ラーカインの近くにいたい。外見では何の傷も見えないけれど、中はどうなっているか分からない。酷い怪我をしているかもしれない。

 そして、もう一つは、この間の戦争で彼は負けたのだ。植民地の王でありながら、開戦を求めたものの、負けた。葬儀の日、バーナッドはラーカインが「レイサック水王および水帝国の民に『罪は無い』」と伝えた。

 しかし、レイサックの心に恥と最悪感が残っている。今回の炎帝国の反乱のことも、彼は何もできなかった。複雑な気持ちが、水王の心の中で溢れている。

王の椅子に座るのが辛い・・・

初めて感じた辛さ・・・

 これまでこのような気持ちはなかった。が、この優れた王たちの前で、高いところから王の椅子に座り、見下ろせるであろうか。自分はこの王座に相応しいのであろうか。様々な疑問がレイサックを責める。


 水王の行動に対し、他の王とアディス王子は何も言わなかった。


 準備が全て整った。左側の先端にゲレル風帝国の大将が座り、その続きにアディス王子、アルタイル風王、バーナッド土王、フォアナックス土帝国の大将、フェガー炎帝国の大将、ラーカイン炎王、レイサック水王、そして、右側の先端に座っているのは、ワーヤス大将であった。


珍しい風景だ・・・

 普段、大将は王と一緒に座らない。特に、他帝国の場合、身を隠れることが多い。

 レイサックは、ラーカインの隣に座ると、相手の力の気配が伝わってきた。炎の力だ。出来るなら、今直ぐラーカインの身体を診たい。本当に傷は無いのか、本当に大丈夫なのかを知りたい。そうでなければ、誓いの宝石が砕けるはずがない。必ず何があった。

 
 すると、そっと左肩に触れられた。レイサックを安心させるように、暖かくて大きな手はポンポンと叩いた。水王の身体はこの手の感触を覚えている。その感触は全身に走り、涙が出そうだ。


 炎王は手を引き、全ての真実を語り始める。

==9月21日更新==

遅い時間の更新で、すみませんでした 月神紫苑

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あきゅろす。
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