FATE【BL】
第45話 4頁
冷酷、怒り、憂い、絶望。全ての感情が含まれた冷笑。
形の良い美貌な顔は、人形のようであった。瞳には希望の光など見えない。
ワーヤスは茫然とした。怒鳴られるよりも、剣で刺されたよりも、この笑みが一番恐ろしい。背中に恐怖が走る。
すると、側近に何も告げずに、レイサックは顔を背け、歩き出す。
(今止めねば・・・今止めねば・・・)
ワーヤス大将の心が騒いだ。手紙の内容は分からないが、今止めねば、水王は二度と水帝国へ戻らない気がした。
「王!我が帝国を捨てないで下さい!どうか、我が帝国を捨てないで下さい!」
思いきり叫んだ。水王の心まで響くようにワーヤスは叫んだ。もし言葉だけで止められなければ、この命を捧げても良いとワーヤスが覚悟した。
足音が止まった。水王はもう一度側近に振り向け、告げる。
「ワーヤス。俺は行く。たとえ滅亡が待っていると知っても、この身でこの目で確かめなきゃいけない」
今、炎帝国へ行ったって、ラーカインの救いにならないかもしれない。もう手遅れと分かったとしても、行かなきゃいけない。自分の目で真実を確かめたい。
ラーカインが炎帝国へ戻る前夜。お互いの気持ちを確かめた。無慈悲で鬼畜な炎王の口から「好き」という言葉を聞けると、想像すらしていなかった。
あの夜、ラーカインは彼を抱けなかった。それは何故だ。今でも疑問に残っている。これまで強引に押し付け、犯したのに、何故あの夜だけ触れなかった。その理由が知りたい。それが今回の件と関わっているのかも知りたい。
「ワーヤス、俺は水帝国を捨てて、炎帝国へ行くんじゃない。俺は、水王として炎帝国へ行く。そして、必ず水帝国へ戻る」
ラーカインの言葉を信じる。
<<『必ず会いに行く。この宝石はその誓いの証だ。俺を信じろ』>>
だが、今宝石は砕けた。割れることが無いはずの宝石が割れた。嫌な予感がする。
だから、もう待たない。お前を信じる。けど、もう待てないのだ。だから、確かめに行く。そして、ここに戻って、ここでお前を待つ!
『必ず水帝国へ戻る』
レイサックの言葉がワーヤス脳内に響き、遠い昔の記憶を読み返させる。
レイサック水王はまだ五百歳の時であった。レイナレス皇太子を促そうとした。
<<「レイナレス様、どうしても王になさらないですか?」
「そうだ」
「なぜですか?」
「俺は、家族以外誰にも愛をあげられない。ロスなら、『きっと』愛している者を愛しながら、王として民を愛せる王になれる。そう思っているんだ」
「無礼を承知の上で、申し上げます。それは、単なるレイサック王子に王座を押し付けるのではないでしょうか?」
「時間だ、ワーヤス大将。時間が来たら、お前が分かる。ロスはどちらも選ばない。両方愛せる道を選ぶのだ」>>
確かにあの時、ワーヤス大将は言葉の意味を理解出来なかった。レイナレスは王座から避けるための言い訳に過ぎなかったと考えた。
しかし、今になると、予約分かった。レイナレス皇太子の言葉。レイサックは水王の名を捨て、ラーカイン炎王の所を選ばない。
水王として炎帝国へ行く。水王として水帝国に戻るつもりだ。
<<「我が帝国のために」>>
フォアナックス土帝国の大将と交わした言葉が浮かぶ。水帝国しか目に見えない自分。帝国の為なら、愛情の全てを拒み、相手を殺す。そう思っていた。
唇を食いしばり、ワーヤス大将は水王に告げる。
「お供いたします、王」
==9月11日更新==
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