FATE【BL】
第45話 3頁
「王!血!!!!どうされたんですか!?早く手当をしなければなりません!」
赤い血を見たワーヤス大将は慌てて、レイサックの具合を伺う。
「大丈夫だ、もう治った。それより、炎帝国やアルたちから何の連絡もなかったか?」
「・・・」
答えがワーヤスの喉につまり、声が出ない。
どうする・・・・
渡すか・・・渡さぬか・・・
レイサックはその行動を見逃さなかった。目を細めて、問いかける。声から真剣さが伝わってくる。
「来たな?」
桔梗色の瞳は視線を逸らした。ただそれしかできない。王に嘘をついてはいけない。どうすれば良いか、ワーヤス大将自身も分からない。答えが見つかるまで、口を閉じるしかできないのだ。
キンッ!
鉄は何かとぶつかり合う音が響く。金色の鎧が、着ている主と一緒に壁に押し付けられた。相手の激怒を感じるぐらい容赦なく、胸を強く押し付けられた。
ワーヤス大将は何の抵抗もしなかった。
「ワーヤス!今すぐ、隠していることを全部吐け!」
レイサックらしくない怒鳴りであった。水王はもう冷静になる余裕が無い。頭の中で二つに砕けた誓いの宝石が浮かんでいる。
外で何が起こったか・・・
炎帝国で何があったか・・・
そして、『ラーク』の身に何があったか・・・
一秒も待たない。待てない。直ぐに、今直ぐに知らないと後悔する気がした。
王の命令には逆らえない。誤魔化しはここまでかとワーヤスが思った。預かった手紙をレイサックに渡す。
手紙を見て、レイサックは大きく目を開いた。ディープ・ブルー色の瞳は、驚きを隠せない。手素早く手紙を取り、読んだ。
『拝啓 レイサック水王殿
突然のご連絡でお詫びを申し上げます。自ら水王殿を招待に行けず、非常に残念と存じます。明日の昼間に、我が帝国では、重罪犯者ラーカイン前炎王の死刑を執行致します。水王殿にとっても素晴らしい機会ではないかと思い、この招待状を送り致します。是非、我が帝国の国賓室へいらっしゃってください。特別席を御用意しております。 ルース 新炎王』
レイサックの背中に冷え汗がじわじわと出てきた。短い手紙であったが、書かれていることは、息が出来ないぐらい重い。
<<明日の昼間に、我が帝国では、重罪犯者ラーカイン前炎王の死刑を執行致します>>
もう一度手紙の内容を読んだ。『明日の昼間』という言葉に目を止める。
明日の昼間・・・
明日の昼間・・・
『明日』というのはアシタのことか、もしくは・・・
ここまで来ると、思考回路が切断された。自動的に切断された。これ以上何も考えられない。
手紙に書かれている処刑の時間を理解できない。いや、理解したくないのだ。事実と向き合いたくない。レイサックの綺麗な両手が震える。顔を上げないまま、呟く。
「この手紙はいつ届いた?」
さっきの脅かしよりも、ずっと小さな声であった。だが、ワーヤスは鳥肌を感じる。
美しいディープ・ブルーの瞳から、何も映らない。
「昨夜でございます」
すると、何も映らないディープ・ブルーの瞳は怒りが灯った瞳へと一変した。しかし、怒りだけではない。動揺、絶望、様々な表情が含まれている。
レイサックは廊下へ歩き出す。一言も言わずに。ゆっくりと歩き出す。ワーヤスに怒鳴りもせず、何も言わなかった。その一歩一歩は、魂が入っていないように、足音が全く聞こえない。
「王!どこへ行かれますか?」
呼ばれたレイサックは、ゆっくりとワーヤス大将に振り向けた。美しい顔に笑みが現れた。
怒鳴りよりも・・・
叫びよりも・・・
涙よりも・・・
人間も神も、決して変わらぬ・・・
一番悲しい時に、『笑みが浮かぶ』・・・
==9月9日更新==
前回に勝手に休んですみませんでした〜月神紫苑
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