FATE【BL】
第40話 3頁
ラーカインが眠りから目覚め、次の日レイサックが起きると、周りには炎王がいなかった。
残っているのは温もりの感覚だけ。恐らく彼が目覚める前に行ったばかりであろう。
水王の身体には赤の布で覆われて、その布にはラーカインの力の気配が残っている。彼が眠っていた時にかけられたであろう。
レイサックは布を手にし、見詰める。昨夜のことを思い出すと、レイサックの顔が赤くなった。理性があったのに、そこまで誰かを誘ったのは生まれてから初めのことである。
欲望を開放した後、自分が気を失ったとレイサックは覚えている。だが、なぜ昨夜ラーカインは彼を抱かなかったかは、今でも分からない。
彼の身体の為だと告げたラーカインだが、これまで媚薬でも使ったのに、今回はなぜラーカインは彼に手を出さなかった。炎王が彼を守りたいとか、そんな可愛いこと、ラーカインのような者には有り得ない話。
(何を企んでいるに違いない)とレイサックは思った。もしかして、ラーカインは彼の欲望を向上したいだけかもしれない。彼を二〜三日放置し、そして、突然現れるという企画であろう。
レイサックが目覚めた時に、外はもうすぐ昼間。昼間になると、寝室の扉が叩かれ、いつものワーヤス水帝国の大将である。
水王は「入って良い」と答えると、頭の中に昨日のことが浮かんだ。ワーヤス大将に彼が乱れた姿を見られた可能性。
「王、お身体は如何でしょうか?」しかし、ワーヤス大将からはいつも通りの言葉であった。怪しい行動は一つもない。
一方、レイサックの顔は真っ青になっており、上手く喋れない。
「あ・・・だ・・大丈夫だ・・・う・・あっ!そうだ!ラーカインは昨日目覚めた。今はもう炎帝国に戻ったと思う」
レイサックは直接に質問する勇気が無かった。『昨日見られたか?』という質問は死んでも口にしない。
「存じております」ワーヤス大将はゆっくりと頭を下げ、声はいつもと変わっていない。
だが、その答えを聞き、レイサックの鼓動が走った。ワーヤス大将が「知っている」理由は聞かなくても推測出来る。
「そ・・・そうか・・・俺は今日から仕事に戻るから。準備してくれ。長い間さぼったから」レイサックは窓の外へ目を逸らし、話の課題を変えた。
「いいえ。王は今日からこの寝室に休養することになります。これは私と貴族の会議からの結論でございます。カリナ姫様の御葬式までは一歩もこの寝室から出入り禁止でございます」
ワーヤス大将は今朝緊急に開いた会議の結論を告げる。
すなわち、あと十四日間レイサックはこの部屋に監禁されるともいえるであろう。
「何だと!!?」水王は叫んだ。
「これは水帝国の最上貴族の会議からの結論でございます。どうかご了承下さいませ」けれど、ワーヤス大将はもう一度深く頭を下げ、述べた。
王は帝国の中の一番権威を持っている者。だからといって、他の貴族や大将の意見を聞かない訳にはいかぬ。特に最上貴族の会議の結論は従うべきである。
「俺は大丈夫だ!!心配しすぎただろう!」けれど、それを従いたくないレイサックは反論した。
すると、ワーヤス大将は寝台の近くまで近付き、桔梗色の瞳は真っ直ぐ主の瞳を見詰め、言う。
「王。私から申し上げるのは恐縮ですが、私が昨日のことを全て記憶から忘れて欲しいことがお望みのであれば、どうか御葬式までこの寝室に大人しく休養して下さいませ」
一番親しい側近の言葉を聞き、レイサックは完全に言葉を失った。
ワーヤス大将は昨夜のことを知ったかどうかの答えは、明確である。
『自業自得』・・・この言葉がレイサックの中に浮かんだ。
水王は額に手を当て、溜め息を付き、答える。
「分かった。けど、仕事は寝室で運んでくれ。寝るのはもうさんざんだ」
その日から十日間が経った。
炎王の突然な訪問を期待していたレイサックは徐々に絶望になった。
最初の五日間は久しぶりに炎帝国へ帰れなかったラーカインは、沢山の仕事が溜まっていると思い、水帝国には来られないとレイサックが思う。
しかし、もう十日・・・
なぜ来ない・・・・ラーク・・・なぜ・・・
答えが無い問い・・・
毎晩レイサックは寝室から外を眺め、たまにラーカインと一緒にいたベランダに歩いたりしていた。
それでも、炎王の気配はなかった。
確かに大人しく休養したおかげで、彼の力が半分以上回復してきた。けれど、心の中には穴が空いていると感じる。
自ら炎帝国へ行くことも考えたが、ワーヤス大将がその秘密を持っているから、出来るだけ今回は大人しく待っていると考えた。
レイサックは窓の外を眺める。夕日がとても綺麗。すると、
「ロス」
聞き慣れた優しい声は寝室の扉から響く。
==2月6日更新==
お待たせして、申し訳ございませんでした 月神紫苑〜
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