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FATE【BL】
第36話 13頁
前風王の片腕はアルタイルを抱きながら片腕はバーナッドを抱いている。

いつもと変わらないゼファー前風王の暖かさ。

アルタイルにとって、こぼさないように我慢している涙は、限界を超えてしまいそう。

認められないではなく、

単純に父親として息子の歩む道を心配しているだけ…

こんなみっともない身体になっても、父上からの愛情は下がること無く、いつものまま。


部下の目の前に、泣くのは決してしたくないこと。だが、苦情の波が愛情の波とぶつかり合い、エメラルド色の瞳に涙が溢れ出す。

『王』である者は部下に涙を見せない。

それが決まりじゃなく誇りである。

特に二王はそう思っている。


その悩みを見通したゼファーは、アルタイルに告げる。

「泣きなさい。大丈夫。外はもう中の様子が分からないようにした。声も聞こえぬ」


気が付いたら、いつの間にかバーナッドが作ったバリアの中に、もう一つの結果が張られた。


バーナッドはそれを見て考える。

素晴らしいというか・・・流石ゼファー前風王というか・・・

自分のことだけではなく、周りのこともよく考えるられる方である。



我慢する必要が無いと分かった途端に、アルタイルの目から小さな涙が前風王の腕に落ちてくる。


「父上!!」アルタイルが全て隠している気持ちを叫び声に変え、声を押し殺さずに泣き出した。前風王は何も言わずに、風王の頭を撫でて慰める。


大人としても男性としても王としても、泣くのは情けないこと。

だが、今の瞬間だけ、今だけ子供の時代に戻りたかったアルタイル。


一方、片腕に抱かれているバーナッドは、紫色の涙ぐましい目で、森色の瞳を見詰める。

二千五百年以上前のあの夜。ディバー当時の土王、バーナッドの父上が、バーリウス前土王、バーナッドの父上に殺された日。あの夜も、確かに三人であった。違うのは、アルタイルは眠らせていないこと。


土王と前風王は目を合わせただけで、何も話さなかった。

すると、バーナッドはある声が自分の名前を呼んでいると聞こえた。

 (バーナッド)

 間違いなく、ゼファー前風王の声である。けれど、目の前にいるゼファー前風王の口は動いていない。

 (風を使って、君に与の声を運んでくれた。アルタイルには聞かない方が良いと思ったから)ゼファー
は微笑む。

 アルタイルを聞いてはいけないことはなんであろうとバーナッドは疑問に思い、声を聞き続ける。  
 

 前風王は、バーナッドを見詰めて、声を出さずに、直接土王の耳に言葉を伝える。

 (ありがとう、バーナッド。アルタイルを蘇ってくれて、ありがとう。これから君たちの道は、おそらく以前よりも険しく残酷だと思うが、さっき君の言葉を聞いたら、安心した。忘れるな。守るということは死ぬことではない。『共に生きる』ことだ)


 すると、紫色の瞳から、たまっている涙が落ちてきた。

 「そ・・・そうします」少し震えた声で、バーナッドは涙を流しながら答えた。

 「良い」ゼファー前風王は更に大きい笑みが浮かび、二王を強く抱きしめる。


忘れるな・・・・

守るとは・・・死ぬことではない・・・

『共に生きる』ことだ・・・・

この言葉は何度もバーナッドの頭に繰り返す・・・

二王は、二千五百年前から愛情や信頼を失い、互いに語れなくなった・・・

兄弟から『敵』へと変わり・・・

信頼から『裏切り』へと変わった・・・

今日、二王がまた巡り合い・・・

これから新たな道を歩み出すことになる・・・・
 

==7月30日更新==

==第36話『父親の心』完了==

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