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FATE【BL】
第36話 12頁
「その痛みの意味分かるか、バーナッド?」ゼファー前風王はバーナッドに質問した。

だが、土王の答えを待たずに、前風王は、二王と二人の大将が居ない方向で振り向く。森色の瞳は内苑の風景を眺めながら、話を始めとする。


「最初にアルタイルが死んだと聞いた時、君が一緒に居たのに何故だと一瞬思ったが、君にそういうことを攻めるつもりはない。王という者は、戦場で帝国の為に死ねるのは何よりの誇りだ。無論、君が『約束』を破ったのは、別の『償い』が必要となる」


ゼファー前風王の言葉を聞き、疑問がその場に広がった。

これが『約束』を破った償いではなかった。だったら、さっきまでのことは何だったんだろう?


バーナッドは『約束』を守れなかったのではなく、他の『理由』で攻撃する必要はどこにあるか?

皆の疑問に次の前風王の言葉が答えになる。


「たとえ蘇ったアルタイルが力を無くしたとしても、君がアルタイルを蘇らせようとすると聞いて、与は此処に来た。そして、アルタイルを見た瞬間に、与は『絶望』した」


 『絶望』と言った時に、ゼファー前風王の声が悲しそうに聞こえた。


(なるほど、父上は俺のみっともない状態が認められないんだ)アルタイルは心の中に呟き、凹む。


王としての誇りは『力』

だが、アルタイルはもうその『力』が無い

こんな形で蘇ったよりも、死んだままで良いと前風王は、言いたかったのであろうとアルタイルが思う。


 自分が勝手にアルタイルを蘇らせたバーナッドは、詫びを言おうとすると、ゼファーは話を続ける。

 「アルタイルは、与の風の魂さえも受け取れない身体になった。与は後1万年も生きていかないだろう。けど、寝室に入った時に、この身体は無理だと分かった。父として大切な息子の為に何も出来ないのは、みっともなくて失格だ」


 低い声が震えるとともに、声の主の気持ちも伝わってきた。一方、前風王の言葉と痛みはアルタイルの心の底まで響き、涙をこぼさないように精いっぱい我慢している。



 ゼファー前風王が寝室に入った瞬間に、アルタイルを見詰め、こぶしを握り締めた理由は、アルタイルとバーナッドが一緒に寝ているのではなかった。力が遣えなくなったアルタイルに自分が持っている風の魂を移しに来たのに、出来なかったわけである。


 普段神の世界の寿命は2万年ぐらい。ゼファー前風王のように力も強ければ、2万5千年までも生きていける。しかし、魂を渡すというのは、自分が『死ぬ』と同じ意味である。ゼファーは、自分の命を捨てる覚悟をして、息子を助けに来たが、アルタイルの身体はもうどの魂でも受け取れない。


 前風王は自分が何も出来ないことが怒りと変わり、いつも冷静している自分にはいられなかった。これからアルタイルはどうなるか?王の資格である力が無くなった彼の『居場所』は?という様々な疑問が浮かび上がって、二王に聞こうとし、内苑まで呼び出した。


 バーナッドは、話しを聞き、自分が勝手にアルタイルを蘇らせたせいで、アルタイルもゼファー前風王も苦しませ、この傷跡はその苦しみの対価であろうと考える。

 (これぐらいはまだ軽いです・・・もっと命をとっても構わないのに・・・)と土王が自分の中に考え込む。


 
 話が終わったようにゼファー前風王は、別の方向からアルタイルとバーナッドがいる方向に振り向き、言う。

 「それが与の一つの痛みだ。そして、もう一つの痛みは、与に『息子』の身体を刺させことだ」ここで、これまで冷たい表情だったゼファー前風王はいっぺん、いつものように暖かい表情に変わった。


 (『息子』??)

 アルタイルもバーナッドも目を丸くし、特に、バーナッドは不思議な顔をした。


 ゼファー前風王は真剣な声で、土王に説教する。

 「バーナッド、これからアルタイルの面倒をずっと見るのは君だけだ。ここで死んだらどうする?!『簡単に』とかじゃなく、自分とアルタイルの命だけは残すと覚悟して、最後までに本気で戦え!!この傷跡は、君を思い出せる役割だ!君はこの一生アルタイルを守らなければならない。それが君の『償い』だ!」


 ゼファーは怒ったのは、アルタイルを勝手に蘇らせるのではなく、バーナッドがアルタイルを守るべきなのに、自分の命を失っても構わないことをしたからである。


 説教が終わると、前風王の真剣な声が、優しい声に変わり、笑みが顔に浮かびながら、言う。

 「もっと自分の命を大切にしろ!分かったか?息子よ。君たちはいつもでも与の大切な息子だ」ゼファー風王は両手を大きく開き、地面で座っている二王を抱き締めた。


バーナッドの胸にある傷跡は・・・

『償い』の印ではなく・・・

父親からの『愛情』の印である・・・


==7月28日更新==

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あきゅろす。
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