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川平さん1


「ふーむ、最近は物騒だねェ」


ぱらり、と紙を捲る音
来客用ソファに悠々足まで放り出して、ぽつりと呟いた声の主

大きく広げられた新聞のせいで生憎顔を見ることは出来ないが、ぷらぷらと小さく揺れる足先は、暇だ暇だと訴え続けていた


「謎の飛行物体、並盛山上空に出没…ね。少し前は黒服のおっかない人達がうろついてたけども、今度はなんとゆーふぉー!あーたも気をつけなさいよ」

「……」

「ゆうちゃん。この前も教えたばっかでしょ、ホラ、お返事が聞こえない」

「はいはい、川平さん。ところで何度も同じ質問で申し訳ないんですが、一休みはまだ終わりませんか」

閉じられた新聞から顔を覗かせた彼に、視線を移すこともしないで手元の用紙に、蛍光ペンでラインを引きながら淡々と述べる



「ここに呼ばれて、過ぎること、早二時、かんっ」

キュッ、と音を立てるペン先に思わず眉間にしわが寄る


「さっきからずっと雑用しかやってない気がするんですが」

「あーたも休憩する?さ、いらっしゃい」

「いえ川平さん、こっち来て下さい」

「仕方ない、甘えたなゆうちゃんの為に、あたしが行ってあげましょうか」

手から新聞を投げ出せば、へらりと笑みを浮かべて駆け寄ってきた。そのまま彼女の後ろからガバリ、と腕を回す

途端きらりと光った彼女の目、と勿論比喩表現だが…



「おぉっ?」

彼の腕をがしりと掴んで回転イスを右回し、それごと回ったその身体を己と入れ替え、そのままぎゅう、とイスへ沈め込んだ

ジャスト三秒、ぽかんとしたまま固まる彼の前に仁王立ち



「…お見事だねェ、余計な技ばっかり覚えてくれちゃって…涙が出そうだ、全く」

「川平さんの為だけに愛を込めて考えたんです。感謝して下さい」

「おや、愛故と?」


ゆうの台詞に一瞬目を丸くした後、意味深に細められた彼の目。

「…それはそれは」

「!っわ」

小さく口角を釣り上げたかと思えば、彼の片足が器用に彼女の足元を崩す
そのまま前のめりに倒れてきたその身体を、両腕を広げて受け止める




「嬉しいことを言ってくれる」


上目に視線を送られて、いつの間にか緩やかな動きで背に回された彼の腕
余談だが私は異常な程に背中が弱いのである

「っ!か、わひらさんっ」

「愛ある行為なら大歓迎」

「ばかぁ!いやみに決まってるじゃないですか!」

「あーたはあたしに構われたくて構われたくて仕方ない訳だ」

「…都合良く変換します機能は、相も変わらず絶好調ですね」

白けた様子で溜め息をつく


「あぁでも」

そうしてふと思いついたように口を開く

「人を呼びつけといて、仕事押し付けた挙げ句にやーらしいことするような大人は大嫌いです」

「え、ちょ、ゆうちゃん…そんなつもりじゃあ」

「川平さんが大嫌いです」

「指名な上に、二度!」

「はい、とっても大事なことなので」


落ち込む彼を横目によいしょ、と腕から脱け出した
彼はと言うと、余程大嫌いが急所を突いたらしく、のろのろと机に向かい始めたようで



「…ふむ」


ちょっと言い過ぎた、と思案思案

ちらりと見やれば既に背を向けて、溜めていたお得意先に電話をかけているようだ
心なしか声がいじけ調子だ




そっと近付いて、未だ気付かず会話をしている彼の耳元に、口を寄せ

甘く囁くのだ





っぱり、大好きでした




突然の叫び声とぶつりと切れた電話に、相手が首を傾げたのはそのすぐ後

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