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椿を手折る炎
椿明かすは密約



「あれ、真田の旦那こんな所で寝てんのか」


「あ、佐助…」



よぉ、と挨拶した忍びはどこからともなく現れて私のそばで眠る幸村の頬をしゃがみ込んでつついた。

「んー…こりゃ薬を盛られたな」


「…薬?」


自分も似たような事をしたのだから、それを非難する権利はないかもしれない。
けれど、戦で帰って来た幸村に、弱々しく微笑んだ幸村に、

薬を盛った、なんて




「……」

「あれ、珍しいな。あんた今スッゴい怒ってるっしょ?なになに、真田の旦那の事見直したぁ?」


冗談のように、佐助は笑いながら話したけれど。
目は『そうであって欲しい』と語っていた。


「……佐助、何か勘違いしてるよ」

「…なにが?」



「私、ずっと前から幸村の事………愛してるの」






「…そりゃ、俺様びっくりだわ」

本当に驚いて居るんだろう。佐助は私の隣に座り込んで頭を掻いた。


「それじゃあ、アンタが死にたがる理由がますます分からないんだけど。…心配掛けたいだけなら止めなよ」


「そんな理由じゃないよ。ただ私は私を殺してやらなくちゃ許せないんだよ」




この言葉で、佐助は何かを汲み取ったようだった。急に怖い顔になって、私の肩を掴んだ。


「…誰の、命令だ?」




ひゅ、と吸い込んだ酸素が一気に失われる感覚。
忍びの技なのか、口を開きそうになるが言うまい。唇を噛み締めて血が流れだしても私は辞めなかった。


「そう、私怨とばかり思ってたけど違うんだな」

「……」

「アンタは何か弱みを握られていて」


「……」


「誰かにその弱み……仮に人質として、脅されたんだな」


「……」


「…そしてお館様を殺そうとしたんだな」


私は、肩を震わしてしまった。忍びの読心術だ、と片付けるには彼は優秀すぎるじゃないか。

このままじゃ、バレる。



「だから、死んで詫びるって?誰が頼んだよ!?アンタ無責任じゃないか!」

「お館様にも、幸村にも、私は恩を仇で返したの!みんなが許しても、私は許せない……!」


私の主張に、佐助は怒りを隠さなかった。

「…駄目だ、アンタを逃がす話取りやめにする。アンタがやるべき事は罪の意識で自害する事じゃなくて、その命令した奴をとっちめることでしょうがっ!」

「……駄目、なの」



佐助は、少し冷静になったのか「どうして…」と悲しげに眉をひそめる。けれど、駄目なものは駄目だから。


「…命令はね、とても簡単だよ。私は死ななくてはならないの。私の死を口実にして、私の父は戦の大義名分を得るのだから」


「……っ!」



戦国の世では、よくある事だ。女性の地位はただでさえ低いのに、特に武家の女性は計略の駒に過ぎない。犠牲、というにはあまりに日常的な事だ。


少女は、自虐的に笑った。



「椿の花言葉は“誇り”だけれど、椿自体は縁起の悪い花なのよ」




「…は?いきなりなんの話」


「椿は散らない。
椿は自ら、ポトリと花を落とすの。だから私にはよく似合う名前だね」


少女の見つめる先には、冬近づくに連れて膨らんでいく中庭の椿の蕾達が月夜に輝いていた。




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