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椿を手折る炎
椿寄り添う炎B



ふと、優しい指が俺の頭に触れた。あの女達を思い出して身震いがしたが鈴の転がるような声で、名前を呼ばれたので目を開けた。

彼女は、まるで母のような笑みで俺を撫でていた。



「……夢であろうか?」


いつもなら、無闇に傷つけて恐がられてしまう。自分は加虐的ではないと思うがどうにも荒ぶる心のままに、彼女に酷くしてしまうのだ。



細く、白い腕を。
幸村は掴んで、夢か現かを知ろうとした。



「……っぁ、ごめんなさい…!」


白い腕が、逃げ出そうともがく。


「……夢、ではないのか」



幸村は未だに体が重く、意識もはっきりとはしていなかった。



彼女の怯えた目に、幸村はホッと安心してまた涙をこぼした。
その様子にギョっとしたように、彼女は体を震わせる。



「どう、されました…?」


「……そのまま、で居てくれ」

「え…?」



理解してないのか、彼女は戸惑いを隠さないまま掴まれた手と幸村の顔を交互に見やる。
幸村は、少しだけやるせない笑みを浮かべてー…


彼女の手を離した。


「…すまぬ」


さぞかし怖がらせた事だろう。早く退室してやりたいが、立ち上がってみると酔ったようにふらついた。


それを支えたのは、怯えたままの彼女だった。



「あ、危ないから…!座ってていいですから!」

見返すと、彼女の表情は硬かったが腕はしっかりと俺を掴んでいて、何故だか心が温かくなった。



***


「…良いのか」

キョトンとした幸村はしかし、どこか嬉しそうに部屋に帰って来た。座らせてみたは良いが、やはり安定しない。


「…眠いんですか?」


「…まぁ、そのようなものだ」

「寝ても良いですよ」



布団はあるし、私はその方が喋る必要もないし安心する。けれど幸村は嫌そうな顔をした。


「……寝顔を見られるのは、御免蒙る」

「…はい?」


何言ってんだこの人。
言ってから、照れたように顔を背く彼に思わず笑みがこぼれた。


「お、おなごに寝顔を見届けられるなど、武人の恥でござる!」

「今更何言ってるんですか…」


言ったそばから眠そうな幸村を布団に転がした。私はまだ一人で歩けないが、座ったまま幸村を転がすのは訳ない。


早く眠ってくれ、と思っていた矢先に。




「ぐきゃあぁっ!」

ぐい、と袖を引かれて私も布団に転がってしまった。

「…もう少し、色気のある声は出せぬのか」

楽しそうな幸村の笑みに何が起こったのか理解して逃げ出そうとしたが腹に腕を回されてそれも叶わない。


「今夜は冷えると聞いた。なればこうして暖を取るのも、悪くはなかろう」

「えぇえ…」



しかも、幸村は顔を私の胸に押し付けるような体制で寝ようとする。

「寝顔をお互い見なくてすむだろう?」

「だからってこんな、」



「…聞きたかったのだ」

私の胸に、耳を押し当てる幸村の声は今までになく弱々しかった。


「そなたが、生きて此処に居ることすら夢とも思うのだ」


「……幸村、さま?」


「…お館様を失う恐怖も、そなたを失う恐怖も俺には耐えられぬ」



その言葉に少なからず、胸が痛んだ。お館様に毒を盛り、謀反を起こした罪で死ぬはずだった私を、幸村は恨みで生かして居るのだと思っていた。


でも、違ったみたいだ。



「…名前を……呼んでくれ」

「…幸村、さま?」



幸村はぎゅう、と腕の力を強めた。
え、違うの?



「……幸村」


「…」


「…幸村、ごめんね……」


彼の表情は見えない。
でも、見えなくて良かった。



私も、


彼も、



泣いていたのだから。






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あきゅろす。
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