椿を手折る炎
椿寄り添う炎@
※オリキャラが出張ります。
***
幸村が他の国と戦に出てひと月になるが、佐助は期を計っているのか今回は私を逃がす気は無いらしい。
幸村が上田城に居ない事は、私にとっては願ったりかなったりであるが、
問題が多々ある。
そのひとつがー…
「ここに居られましたのね『ツバキ』の方」
障子を、勢いよく開いたのは私よりも少し年上の絵に描いたような、お姫様。そしてその取り巻きたちが、普段なら入る事を禁じられているであろう私の幽閉された離れに、ここ最近ちょっかいをかけにくる。
聞けば、有名な武家の姫ばかりだが幸村には相手にもされてないらしい。
その腹癒せか、逃げる事も叶わない私に陰湿な嫌がらせや小言をふっかけにくる。
いい迷惑だと思う。
「まぁ、『椿』の方は礼儀も知らないのでございますか」
「……」
『椿』は、名を名乗らない私に付けられた名前である。嫌がらせのつもりだろうが、椿は好きな花だし何とも思わない。
喋る元気もないので、静かに睨むと彼女達は美しい顔に醜い笑みを浮かべた。
「今日もまた、豪勢なお召し物でございますね『椿』」
幸村は、侍女に私の世話を命じていったらしく毎日違う着物を着せるのは彼の命令なのだろう。それが彼女達のお気に召さないらしい。
だからこそ、
「まぁ、誠に優美な金糸の鶴でございますな」
「なれば、私めは此方の振り袖を」
「この簪は私めに!」
「帯はいかがいたしましょうぞ?」
女達の手によって、私の着物が引きちぎられていく。
愛着などはないが、確かに綺麗な模様であるし布に戻される光景は虚しく、
なんか勿体無い。
寝間着に端切れを纏っただけのような格好にされて「みずぼらしい」とけなされる。
それが日常と化していた今日、
侍女が、慌てた様子で城内を駆け回り。
「幸村殿がお戻りになられた!」
私のささやかな休息は、終わってしまった。
城主が戻ったとなれば、女達は目の色を変えて着飾った。そして幸村の所へと行くのだろうな、と考えて。
体力の尽きた私は目を閉じた。
なのに、
ずしりと何か重さを感じて。
私は目を開けた。
ちらっと、栗のいがのような頭が見えて私の背筋が凍りついた。
「……真田殿?」
恐る恐る、私の腹に乗る彼の頭に手を伸ばすと彼は反応をしめさなかった。寝てるらしい。
しかし、戦の格好ではないし湯浴みもしたらしい幸村の体は完璧に湯冷めしていた。
もうすぐ冬が来ると言うのに無謀すぎる!
「か、風邪を引く…!」
何か、何か暖をとるものは!この時期の風邪は死ぬほど辛いんだから……って何心配してるのかな私は…
「……馬鹿だ、私…」
よく見ると、幸村は私にしがみつくように眠っていた。
これでは動きようもない。
なんとか、手を伸ばして引き戸に隠しておいた着物を広げ、幸村の背にかけて一安心する。
寝顔を眺めていると、母性本能なのか背をさすってやりたくなって、
ふと、
私はこの人を恐れてはいるけれど、憎んではない事に気がついた。
「……幸村、」
名を呼べば、微かに彼の寝顔が安らいだ気がした。
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