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椿を手折る炎
椿を案ずる忍



「なぁ、アンタ馬鹿じゃないの?何考えてんの?火に油注いでどーすんのっ?!」


佐助が私の身を案じてか、幸村に反抗した私に叱咤する。
返答しようと口を開きかけて、声が出ない事に気が付いた。


だらしなく、四肢を投げ出したまま私は仰向けになり佐助を見上げて。こんな私を心配するように、痛みを分かち合うように、苦しげな顔をするのだから彼は忍びらしくない。



幸村に散々酷い扱いを受けた後、彼が居なくなった部屋に佐助はやってくる。



「あの状況で宣戦布告みたいな真似して、アンタ死にたいの?……ってそうだよ、旦那が出来る訳もないけどさ…

…なに笑ってんの?」



ちょっと怒ったような、呆れたような声で佐助はしゃがんで、私の顔を覗き込んだ。

思いを、口の動きで伝えようとしてみた。
確か忍者って、そういうことも出来る筈だよね?


「……」


私の口の動きで、佐助は不機嫌そうに眉をひそめて行く。




「なるほど、アンタは旦那を逆上させて自分の命を絶たせるつもりなんだー…馬鹿げてるって。何回言わせるの?」


サッと、佐助の視線が冷めた。


「それはない。アンタが傷つくだけだよ?更に言わせて貰うなら、俺様は真田の旦那に雇われてるからねー…旦那の意に背く事は出来ない。

…表向きはな」



その言葉に、図らずも反応してしまう。佐助は苦しげに笑って『ある提案』をした。



「……アンタが、信玄公に毒を盛る前にさぁ。独眼竜に会った事があるんじゃない?
近々、真田は伊達とやり合うんだよね。
その騒ぎに乗じ、アンタは伊達軍に投降するんだよ。そしたら、伊達政宗の命でも狙ってみればいいよ。
多分、独眼竜本人か…右目の旦那がアンタを殺す」



すらすら、と述べられるシナリオに少なからず驚いた。もしかして前々から考えていてくれたのかもしれない。

「嬉しそうな顔、久しぶりに見たなぁ。……その時には、鎖を断ってやるからさ。それまで我慢しなよ?」



佐助は静かに私の髪を梳くと――――何故か、静かに私を抱き締めた。
壊れ物に触れるように、優しく優しく。


なのに、しっかりと。




「……さ、すけ」


なんとか声を上げて、彼を呼んでみると。
彼は驚いたように腕の中の私を見つめて、くしゃり、と歪んだ笑みを浮かべた。



「こんな事しか、してやれない」


彼は笑っているのに、泣きそうな声だった。


「アンタが苦しんでいるのに、堂々と手を差し伸べてやれない」




***


好きだった。
花咲くように笑うアンタが。

旦那が好意を寄せてることも、アンタが何かを隠してる事も知っていた。けれど、それに目をつぶって幸せを享受していた。


全てが狂ってから、間違いに気が付いた。




もう、正せない。



思いを心に秘めたまま、アンタをせめて自由にする為に。


アンタを破滅させてやる。




俺様のこの手は、誰かを救えるような手じゃない。





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