椿を手折る炎
椿を手折る炎B
気怠い、倦怠感に襲われた私の体を母親がそうするように、幸村が布で拭いていく。
慈しむような手付きに、安心しそうになるが……先ほど終わった『調教』とやらのせいで。私の体は強張ったままだ。
泣けてきた。
「泣いているのか?」
当たり前の事を聞く幸村は、やはり嬉しそうな顔をする。
私に顔を近づけたかと思うと、涙を舌で掬って「甘いな」と綺麗に微笑んだ。
「涙が…甘い訳ない…」
私がせめて嫌みになるだろうかと呟くと「いいや、甘いぞ」幸村はまた、
ちろり、と舌を出した。
「お前の涙も、肌も、何もかもが甘い…。中毒になりそうな程にな」
毒か、毒なら…
「幸村、も…死んでしまうよ」
私が、お館様を殺そうとしたように。
毒を飲んだなら、死んでしまう。
しかし幸村は、暗い笑みを浮かべた。
「お前に殺されるなら、本望だ。だがその前に……、俺だけがこんなに苦しいのは不公平だと思わぬか?」
また、だ。幸村の手が私の首に伸びて来た。
「お前が、俺を失ったら生きていけないようにしなくては…平等ではない」
何を言ってるんだ、この人。
「俺は、お前を失ったら生きてなどいけない」
そうか、なら…
私はそっと、自分の舌に歯をたてた。
私の体を傷つけたように、私もアナタを傷つける。壊れてくれるなら、喜んで壊れてあげる。
祈るように、私は舌を噛み切ろうと……
「ひとつ、教えておいてやろう。体力の無い人間の力では、自ら死ぬ事もできぬ」
顎を捕まれて、無理やり口を開かされた。
幸村の舌が、口内に侵入して息が苦しくなる。
だらしなく開いたままの口から涎が垂れて行く。悔しくて、憎くなって、幸村の舌を思い切り噛んだ。
途端に、幸村は私を突き飛ばして……暗い瞳のまま微笑んだ。
「死ぬ事など選べない。お前は俺の手の中で……」
「負けませんから…」
幸村は、私の言葉に目を見開く。
私は、ただ睨みつける。
負けない。
この男に、屈服などしない。
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