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椿を手折る炎
椿を手折る炎A


薄暗い部屋で、私はかろうじて生きていた。
右足をチラリと見ると、逃げれぬようにとはめられた足枷が目に入った。それでも私は何度も逃げようとした。

だからこそ幸村は、無感情に私の足の筋を絶ったのだ。



毎日、違う着物を着付けられた私はしかし。泣きながら暴れて着物を駄目にするのが常だった。

「なぁ、生きてるか?」


佐助の声に、うっすらと目を開けた。

彼は以前と同じような表情で、私に接してくれる。その事のせいで脳内は麻痺していた。私が武田を裏切る前のような気分で、「佐助」と微笑んだ私を。
佐助は微かに同情するような目で、
「また飯食わなかったの?」と手付かずの昨日運ばれて来た食事をつついた。


「本当に死ぬよ?」



…それを、待っているんだと言ったら。君は笑うかな。

自嘲気味に笑った私に、何かを感じ取ったらしい佐助は「無駄だよ」と少し怒ったような声を上げた。

「うちの旦那がアンタを殺す訳ない…!そのうち、無理やりにでも胃に食べ物を…」




「……何をしている?佐助」

私の鼓膜に、今の恐怖の対象の静かな怒りの声が届いた。
佐助はそれでも微動だにせずに、静かに襖を開けた幸村を睨んでいた。


「…俺のいない間に、何をした?」

「何言ってんの…!旦那がこうしたんでしょうが!」


佐助が憤慨した様子で叫んだ。しかし幸村は、私を見つめたまま…視線を動かす事無く「…痩せたな」と感慨無く呟いた。


そしておもむろに、私が横たわる敷き布団へとやって来て、
私の着物の襟を掴んで立たせた。

いや、宙に私の足が浮いたので立たせたというのは間違いだと気が付いた。


鼻先をかすめるくらい近くに、幸村の綺麗な顔があった。


「死のうとでも、考えたのか」

力無くうなづくと、幸村は優しく微笑んで…

「これほどお前を愛しているのに、死のうなどとよく言ったな…俺も流石に、傷ついたぞ」


嘘だ。
絶対に嘘だ…!
なんでそんなに、嬉しそうな目で私を見るんだ。
こんな、栄養失調気味の私を。


「ちゃんと教えてやらなくてはならないな」



ぎら、と飢えた獣のような目で。幸村は私を床に押し付けた。

抵抗しようとして、そんな力も無い事に気が付いた。



さっ、と青ざめた私に。
悲しげな佐助の目と、幸村の手が私の着物を裂いていく音が聞こえた…





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