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椿を手折る炎
椿はいつか落ちれど


「おい、待てよ真田幸村……一体どういうつもりだ?お前、そいつが斬られるまで気配を隠してたな?」


「…いかにも、それ故申し上げた。『ご迷惑をおかけした』と……某には、この者を斬る事など出来ぬ。だが、彼女は自らを殺す事を望んでいたのだ」

悲しげに、幸村は血塗れた女性を抱き締めた。



「なれば、望みを叶えてやるのが男児たる役目とも思ったが……」



はらり、と幸村の瞳から涙がこぼれ落ちた。



「この幸村には、些か酷すぎる…!」




寂しげに、泣きながら。幸村は崩れ落ちた。



と、


「何してんの旦那!本当に死んじゃうから後は俺様に任して帰んなきゃ!」

佐助の登場により、幸村は彼女を武田領に連れ帰る事が出来た。



***



そして時は流れ、積もった雪も溶け出そうかという頃。
幸村は、毎日の日課である彼女への見舞いをしていた。



彼女は、あの日以来目覚めない。



死んだ訳ではない。かすかに息をしているが人に言わせれば、結局目覚めないのなら同じだと言うが、幸村はそうは思っていない。



幸村は、眠る彼女の傍らに座ると幼い子に話すように語りだした。
「先日も申したが、お館様が復帰なされたのだ。…そなたの行いは確かに罪深いが、お館様は『毒の耐性がついたわ』と笑っておられた。
さすがお館様だとは思わぬか?」


お館様を称えて叫びたくもなったが、病人の前という事で耐える幸村。

「…そなたを『椿』と称する者が居たが、あながち間違ってはおらぬな」

そう呟くと、幸村は庭に咲いていた椿の花を彼女の髪に飾った。

「美しいままに、椿は花を落とすが……それを拾うのは俺の自由だろう?」



くしゃり、と笑う幸村は淋しげに目を細めて彼女の心音を聞くために耳を当てた。

とくり、とくり、



小さな、確かな音に。
幸村は今日も安堵した。






「…そなたを、待っておる」


享受出来なかった幸せを、
向き合って言えなかった愛を、

取り戻す為に、



あなたを待ち続ける。




春が来ようと、

季節が巡ろうと、



また、椿は咲くのだから





「…共に、生きてくれ」



そして、願わくば。

共に、笑ってほしい。






「……はい」



―完―




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あきゅろす。
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