椿を手折る炎
白椿は朱に染まる
奥州は今日も白雪が桜の花弁のように舞っていた。
奥州筆頭、伊達政宗はそんな空の下で独り刀を振っていた。城の庭とはいえ、薄手の着物で刀を振るう姿は見ていて寒く感じる。
雪の踏み固められていく足音に、刀を素振りしていた彼はその鋭い双眸で足音の主を睨んだ。
「……伊達政宗様…ですか…」
それは、妖しげな雰囲気を纏った女性で政宗は訝しみながらも、
「だったらなんだ?」
と嘲り笑った。
理由はいくつかある。
女は、守り刀を既に抜いており殺気を隠そうとしない事。
だと言うのに、
「misstake!…そんな足元おぼつかねぇ奴が竜の心臓止めれんのか?」
命を狙われるのは常であるが、こんな刺客は見たことが無いうえに危険も感じない。
あの女の刀が、自分に触れる前に女の命を奪う事は容易い。
しかし、解せない。
「それにしても、大丈夫か?裸足で雪の中歩くなんてcrazyなヤツだな」
「…心配要りません、私の足なんて……もう使い物にならないのですから、それよりも…」
女は、暗殺者にしては綺麗な目をしていた。汚れを知らぬような、白雪のようであるのに。
「…覚悟、ってやつか」
凛とした気配が、彼女の頼りない姿と合わさりとてもアンバランスだが、武士と対峙した時のように空気は張り詰めた。
「…気が乗らねぇな、民を切る趣味は無いんだがな」
ハァ、とため息をつく政宗はしかし六爪の一つを抜くと眉をひそめた。
「嫁に行けなくなっても知らないぜ?」
冗談のつもりで政宗は言ったのだが、彼女は何故か微笑んだ。幸せな事を思い出している時のような笑み。
そして、
「……さよなら、
『 』
」
*****
彼女は空を見ていた。
くらい漆黒の天井から白い雪が静かに降りて、肌を冷やした。
白い大地に、椿が散ったような光景が広がっている。
「ご無事ですか政宗様!」
政宗の腹心、片倉小十郎が刀の血を振り払い主の元へと駆け寄る。
「勝手な事するんじゃねえ、小十郎…!」
「申し訳有りませぬ政宗様、しかしこの小十郎…政宗様に刃を向ける輩を捨ては置けませぬ……」
女が政宗に近づく前に、危険を察知した小十郎によって女は斬り伏せられたが、命はまだ有るようだ。
死に装束のように白い着物は、自らの血で赤に染まっていた。
…そこに、人影が現れた。
小十郎が、不愉快そうに「真田幸村…」と呟くと幸村は、感情の読めない瞳を静かに上げた。
政宗は幸村と、地に横たわる女を見比べて「なるほどな」と目を細めた。
幸村は、雪地に赤い花を咲かす女の元へ歩み寄るとーーー
自らの得物である槍を振り上げた。
***
さよなら、
『幸村』
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