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三月拍手(君が為)
◇君がための花を◇
それは、ある春の日の事。
◇◆◇◆◇
いつものように、織田邸の屋根で陽向ぼっこをしていた慶次は蘭丸の声に目が覚めた。
見れば、中庭で蘭丸がウロウロして。なにやら慌てた様子だ。
慶次「どーしたんだい、蘭丸?」
蘭丸「あっ!やっと見つけた、慶次っ!お前のせいであいつがぁ…っ!」
気が動転しているらしく、強がりながらも彼は涙目だ。
あいつ、というのは多分。
まだ言葉も拙いあの子だろう。
慶次「で、一体どうしたって?」
蘭丸「ずびっ…っ!いいからっ、蘭丸についてこいよ!」
そう言って、グイッと手を引かれて中庭を抜け出した。敷地内の外れに、まだ花が咲かない樹がある。
何故か、件の彼女はその樹のてっぺんにいた。
慶次「…たまげたなぁ、アンタ、木登り上手じゃない?」
蘭丸「笑い事じゃないっ!あいつ、ずっと降りれなくて……お前のせいだからな!」
慶次「うん?」
蘭丸「…蘭丸が受け止めてやるって言っても、怖がって降りて来ないんだよ…!」
それがなんで俺のせいになるんだよ、とは言わない。
慶次「そっか、じゃあ俺が助けてやんないとな」
蘭丸「…、早くしろっ」
もどかしげに、あの子と俺を見比べる蘭丸に苦笑して。俺はまだ蕾ばかりの樹を登って行く。
あの子は、まるで降りれなくなった猫みたいに縮まって震えていた。すぐ近くに来て、手を伸ばす。
慶次「…ほら、此処までおいで」
小さな肩がぴくり、と動いた。あの子は恐る恐る、足から降りようとして――っ「危ないっ!!」
とっさに、あの子を抱きかかえて樹の枝に引っかかれて、着地した。
慶次「ごめんっ!驚いただろ……え、」
彼女が、枝を差し出していた。その先に、梅の花が咲いている。
慶次「えっと…これ、俺にくれるのかい?」
こくり、と頷く彼女の頭を撫でてやれば。幸せそうに微笑んでいるので、怒るにも怒れなくなった。
くるり、と枝を回すと。
なんとなく、温かい陽光が見えた気がした。
「ばっかじゃないの!怪我したら信長様に何て…!」
結局、蘭丸に怒られた。
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