[携帯モード] [URL送信]

霧の國
@

【真代視点】


なんとなく、だったけど。
創志くんが呼んで居るような気がして。


天戯さんに謝って、タワーに走って戻った。


「創志くん、」


名前を呼んでから、ふと屋上ではないかと思いついた。


◇◇◇◇◇



あぁすごい。私の第六感目覚めたかも知れない。

創志くんが、壊れた柵から出たらしく。もしこれがニュースで良くあるやりとりなら、私は「生きてりゃ良い事ある!」って力説しながら創志くんを思い止まらせるのがセオリーなのだろうけど、
悲しいかな、

私にはそんな話術はない。





あぁもう嫌だな、悲しいくらいに綺麗な風景だ。
創志くんの細い首が、真っ白の霧に眩しく反射する。




いっそ、そのまま消え失せたなら。
創志くんは、傷付かないで済むのかな。




「創志くん、」


この世界はなんて酷い。


「創志くん…、」


わたしたちはなんて醜くて、




弱いんだ。


「…なんでマヨちゃんが泣いてるの」

色素の薄いきれいな目が、私を映して苦笑する。私が下を向いていた間に、彼はとてもとても近い距離に居た。

困ったような顔をして、泣かないでよと私の顔に手を添えた。

「アンタが泣く意味が分からないよ」

「だって、創志くん、飛び降り…っ」


「してないじゃん」



悪戯っぽく手をひらひらとさせた彼はまた私の至近距離で私を見つめる。

「心配してたの?」

「するよ…!だって、だって私…」



「俺の事が好きだから?」


言葉の甘酸っぱさとは裏腹に、彼の表情はまるで馬鹿にするような嘲るような冷たいもので。私はまた地雷でも踏んでしまったのかと冷や汗をかいた。

「そんな言い方」

「なんで?本当の事でしょ?……俺に愛して欲しくて、興味持って欲しくて、アンタはそんなパフォーマンスするんでしょ?


でもね、そんなの無駄だよ」



私の顎を捕まえて、創志くんは少し持ち上げるようにしたが、私と創志くんはまったく同じ身長なので創志くんは無言で指に力を入れた。痛い痛い。不合理だよ。


「誰も見てないよ、アンタの努力なんて。誰も褒めてくれないし、認めてなんかくれない」


…あぁ、なんでそんな苦しそうに笑うの。


「…創志くんは、見てて欲しかったんだね。褒めて、認めて欲しかったんだね」

「……っ!!」


「だからそんな事言うんだね」


ばしん、と頬を叩かれた。
叩いたのは創志くんなのに、そんな傷付いたような顔をするなんて狡いよ。



「……マヨちゃんなんか嫌いだ…」

「そう、でも私は創志くんが好きだよ」


「……」


目を伏せて、彼は後退りをする。また危ない所に立つのに、彼はそこが落ち着くのだろうか。


「……愛して欲しかった…」

「…そうだね」


「……でも母さんは、俺なんか見てないんだ」


声が、震えた。


静寂を穿つように、とてもくたびれたような声で。彼は言葉を絞り出した。



「…あの時、赤信号で突っ込んで来た車を運転してたのは………俺の母さんだった…」




戻る*進む♯

24/27ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!