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霧の國
A

【真代視点】

昔から、怖かった事がある。
お父さんが死んでしまった時、置いて行かれた気がして。大好きなお父さんが、居なくなってしまって。だけど、お母さんも大好きで。

置いて行かれるのは、とてもとてもつらかったから。


決して、置いて行かないと誓ったんだ。






「大好きなの!!話しかけてくれた!私にあだ名をくれた!あなたが私の生きる意味になった!好き!好きだよ、創志くん!!」


伝えないと、きっと後悔する。もうすぐ、二人とも死ぬんだから。死ぬ気ならこんな、歯の浮くような台詞も平気で吐ける。
明日が来ないなら、
もう一度がないなら、


「大好き…っ」


何度でも、叫べる。
だって、だって私

「ごめん、マヨちゃんは友達としか考えられない」

「好きぃっ、え、は」

「や、だから…ごめんなさい」


創志くんは、実にあっさりと。私をフった。

いや、普通嘘でも好きって言ってくれるもんじゃないのかな。

こんな状況でも、ショックはショックで自由落下していく私たちは、なんて。




『あーぁ、フられちゃったね』

『氷樹』さんの声に、顔が火照った。聞かれてた聞かれてた聞かれてた!!あのこっぱずかしい台詞を、胸の内に秘めてた思いも何もかも!!うわぁああしにたい、いやもう死んじゃうけれど、うわぁああ穴に入りたい…!


『え、本当に死ぬのかな?』

「だって、もう、フられ!」


『今はそうかも知れないけどね、明日には劇的に変わるかも知れないよ?』


氷樹さんの声に、私の頭がスゥと冷えていった。理解した時の爽快感が風のように駆けていく。


『生きてる間は、それが出来るよ。でも死んだら、何もかも終わり。チャンスは二度とないよ、真代』

「…っ!欲しいっ」

『うん?』



「もう一度、創志くんに告白したいっ!」


隣で創志くんが、顔を真っ赤にしているとも知らず、私は叫び続けていた。


「だから!チャンスを下さいっ!!」


『わかった、聞いてあげる…その代わり、』


ごう、と。
私たちを風が取り巻いた。
落下速度が落ちて、重量が無くなっていく。

何事かと、目を見開く私たちの前に。


『君も、ぼくのお願いを聞くんだよ?真代…』

「…氷樹、さん…?」



幻のように、半透明な。
私たちと同じ歳くらいの少年が、そこで微笑んでいた。

黒い髪に黒い目、恐ろしいくらいに整ったその顔は、妖艶な笑みを浮かべていたのだった。






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あきゅろす。
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