霧の國 @ 【真代視点】 「おわ、いきなり何だよぉ」 どん、とぶつかってしまった。見ると油汚れの酷い作業着を着た青年が困ったように、そこらへんに散らばった部品をかき集めていた。 「あ、ごめんなさーーー」 慌てて、手伝おうと屈んだ瞬間ーー。後ろから藍武くんの「おい、そこの作業員!」という声と共に、私の首に巻き付くように腕が伸びて、思わず「ぐぇ」とはしたない声を出してしまった。 藍武くんが、作業員の青年に威圧的に話掛ける。 「ここに、上玉の女が居るんだけどお前興味ねぇ?」 え、どこに。と私は首を巡らせようとして、青年と目が合ってしまった。 「う、いきなり何なの君!」 ヘアバンドで、赤くて長い前髪を留めた青年は何故か、頬を赤らめて藍武くんを睨んだ。 そりゃそうだ。 「はあ?いいじゃねぇか、偶然逢っちまったんだしよォ。 落ちつける場所貸してくれたら、お前にも触らせてやるぜ?」 ーー藍武くん、キャラが変わってますよ。どこからそんな、悪人キャラ引っ張って来たの。 だいたい、上玉の女って…すごく詐欺だよね。私の事か。詐欺だ詐欺…… 私は呆れてものが言えなくなったのに対して、青年は真っ赤になりながら視線を泳がせている。ほら、困ってるじゃない藍武くん… 「…わかった、来て!」 青年は、裏がえった声でそう宣言した。…って、え? 「よし、交渉成立だな」 …藍武くんを、初めて殴りたいと思いました…。 青年は嬉々とした表情で、部品を入れた籠を持ち上げてーー薄い布がのれんのように垂れ下がる、道へと歩いて行く。 私たちも、後を追った。 戻る*進む♯ [戻る] |