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貧乏学生の本田があらわれた!
菊は三つ指ついていた

朦朧とする意識下で、菊は強い力に引っ張られるのを感じた。
おそらく、あの赤い目の青年でしょうけれど。どうして放って置かないのでしょうか、と思考した。

「馬鹿じゃねぇの」

「……え」

「そんなもん俺がしたいからそうするだけだ」

ケセセ、と変わった笑い方で菊の脇に体を挟み何処かへと歩いて行く。

「家、遠いのかよ」

「家……は」

菊の脳裏に、親戚の王耀の憔悴した顔が思い出される。彼のアパートに部屋を借りていたが、ある理由から部屋をでなくては行けなかった。
それからは、ネットカフェで夜を越している。

…部屋は開けとくあるが、帰って来ねえ方がお前のためある

無言になった菊の様子から何かを察したのか、ギルは黙って菊を強く引っ張った。

「とりあえず、ウチに来い」

仕事もあるし、事情も有りそうだし、こいつ小さいし場所は取らねぇだろ、と考えてギルはチラリと菊を見てギョッとする。

菊は静かに泣いていたのだった。


「いいえ…いいえ、いけません…!」

そして強く、否定しました。
菊を支えるギルの手から逃げるように身をよじり、しかしギルはその手を離さずに舌打ちをして、菊の口をもう片手で摘まむように挟みました。

「うるせぇ!一丁前に拒否してんじゃねぇよ、行き倒れてやがったくせによ」

「むーっ」

「はいはい聞こえねーなー!!じゃあ決定だ、良いから来いよ面倒くせぇ」

だめです。
と何度も訴えるのに、ギルの手は離してはくれず。結局、部屋の寝室に放り込まれ、逃げようとしたら簀巻きにされて、菊は逃亡に失敗したのだった。

「とにかく、食えよ」

コンビニで買っていたのでしょうか、鮭のおにぎりを目の前に出されて。
簀巻きの菊に気付いたのか、ギルは無言でフィルムを開けて、やや強引に菊の口におにぎりを突っ込みました。

久しぶりの固形物に、菊は驚きながらもやはり空腹に耐えきれず夢中でおにぎりを頬張りました。
緑茶のボトルをさりげなく置いて、ギルは仕事へと出掛けてしまいましたが、菊はそれに気付かず、思い出した頃には独り残されていました。



さて、縄抜けの技術を持ち合わせていた菊は簀巻き状態からさっさと開放されたわけですが、鍵はないから出て行っては部屋を無防備にしてしまいます。
そして、やや強引にしろご飯のお礼はしなくてはなりません。


「困りましたね……」

ただ、お礼と言っても本当に無一文なのです。お金を借りれない事もありませんが、友人たちに迷惑をかけるのも偲び有りません。


とにかく、礼は尽くさねば。


そう決意して、菊は玄関に正座をして。三つ指をついてギルたちを出迎える事になるのでした。



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