貧乏学生の本田があらわれた!
アーサーの信頼は
いやだ、いやだ、いやだ。
「…ど、うしてっ、嫌っ」
扉は、開かない。
このままでは、
と、携帯電話がチカチカと光っているのに気が付き、菊は咄嗟に通話ボタンを押した。
『もしもし?…菊?』
アーサーだった。
アーサーは、フランシスと話す中で菊の話題になり、アルバイトしてるのかよ、元気なのかよ、ていうか連絡寄越せよな馬鹿ぁ!というお決まりの文句を言おうとしたところで、電話に出た菊の空気に異常を感じて姿勢を正した。
『菊?どうした?』
「…あ、アーサーさ、」
カチカチ、と歯が震える。
指先が、凍りついて行くようで、
まるで、
あの頃みたいで。
あの頃?
「…わたし、わたし…どうしたら…」
だめだ。
アーサーさんに頼ってはダメだ。
彼は、もう私とは違う道を行く人で、忙しい人で。この電話だって……
「すみません、ごめんなさい」
『……おい?』
アーサーが、やや怒りを込めて菊の謝罪に返しました。
「…なんでも、無いんです」
『……へぇ?
滅多に出ない電話にお前が出て、
歯ァガチガチ鳴らして、
声だって震えてんのに、
なんでもねぇ、って信じるようなお人好しか?
俺の事そんな過大評価していたなんてな?』
あ、これは。
「アーサーさ、」
『俺の事を信じねぇお前を、俺は信じない』
そんな、どっかの兄貴みたいな事言わないでくださいアーサーさん。電話越しにアーサーの不機嫌そうな声が響く。
「…自業自得なんです、すみません、だから」
『…俺に言われたくないかも知れねぇけど、菊、本音を言えよ』
本音?
しん、と部屋が静寂に包まれたような気がしました。
『俺が…お前と、トッ、トモダチなのは…別にお前が、俺の言う事聞くとか迷惑掛けないとか、そういうんじゃねぇって事は前から言ってるよな。
俺は、まぁ権力もあるし、金もあるし?お前ひとり位なら…その、どうにでも出来んだよ!だから、』
無理すんなよ、菊。
「…アーサーさん、私」
『はっ、ははっ、なんだよ!感動したか?お前って本当ひとりじゃ何も出来ないんだな!仕方ねぇ!俺が…』
その時、菊の手から携帯電話が抜き取られて、部屋の隅へと弧を描くようにして、飛んで行きました。
そう、部屋は静寂に包まれていたのです。…シャワーの音は、止んでいました。
壮年の、ふくよかな男性が菊を見下ろしています。
「仕事中に電話かね?」
「…あ、う」
がしり、と腕を掴まれてベッドへと投げ出されました。抵抗する間も無く、ベッドの柵に、手錠で両手を繋がれて菊はまた恐怖に体を固めました。
また、こんな目に合うのか。
「………いやだ」
「初物を回せと言ったが、これほど拒否されるとな……
よし、趣向を変えようか。」
壮年の男は何かを呟きながら、自分の荷物らしい鞄からおよそ生身の人間には使用しないであろう機器を取り出した。
それは所謂、拷問や、アブノーマルな人間の間でもご褒美にはならないようなものだった。
日本で、こんなもの持ち歩いてたら確実にお縄になる。
怯えて静まった菊に、気を良くしたのか男はハサミを取り出して、菊の衣服を切り込んでいく。
「…そうそう、良い子にしてなさい。肌を傷付けたくないな、ら」
「………っ!このっ下衆が」
菊は、ハサミに怯まずに思い切り男を蹴り飛ばしました。しかし、何度逃げようとしても手錠は外れません。腕が擦れて血が滲み出しました。
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