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貧乏学生の本田があらわれた!
イヴァンと白昼夢

ギルが仕事を終えて、ひとり帰宅すると暗い部屋の中から菊が眠そうな顔で出てきました。
ギルは少し嬉しながらも、早く返したのに寝てないのかよ、と菊を小突きました。

「ですけれど、ギルさん」
「答えは全てjaだ、このバカ」

みれば、イヴァンがちゃっかり菊とギルの寝室で寝転がっているのでギルは舌打ちをしました。

「アイツに何もされてねーか?」

「イヴァンさんですか?ちゃんとお茶碗洗ってくれましたよ、あとギルさんの選んだウサギさんのマグカップ気に入ってました」

「そうかよ、俺様のセンスの良さにビビってただろ?」

「いえ、これ目が赤くてギルベルトくんみたい〜割らないように気をつけるねっ…と」

地味に声真似が似ています。
聞きたい事はそういう「何か」有ったかという意味では無かったのをすっかり忘れて、ギルは久しぶりに菊とまったり晩御飯を食べました。

****


ある日の昼。
ギルの部屋を掃除した後にお布団を干しながら菊は、ジッとある名刺を見つめていました。

同僚の鈴木くんに貰った効率良く稼げるバイト、とやらの連絡先です。詳細は知らないまま、とにかく紹介するから〜と押し切られて名刺を貰ってしまい、何やら断り辛くなってしまいました。
怪しいのは分かっているのですが、きっぱりと切り捨てる事が出来ないまま、菊はその夜にそのバイト先の人事と面談をする事になりました。

「無理だったら断ればいいんです、そう…無理だったら」

「本田くん?なーにしてるの?」

布団干しの最中に陽だまりの中で、名刺を見つめていた菊の背に、ずしりと重みが乗りました。
イヴァンと布団に挟まれて、菊は不恰好な悲鳴をあげます。
しかしイヴァンは我関せずと、太陽光でふわふわになったお布団に感激していました。

「わー!ふっかふかだー!」
「お日様の匂いがしますよ」

「へえ、お日様の香りかぁ。どんなのかな」

菊の背ごしにイヴァンが布団に顔を埋めて楽しそうに目を細めました。
菊もつられて笑います。

「今日はいい天気で助かりました」

「うふっ、そうだねぇ〜。僕こんな事したこと無かったけど、なんだかポカポカするねぇ」

布団干したこと無いとは…もしやイヴァンさんはベッド派だったのでしょうか?

「あ、本田くんが悩んでる悩んでる〜。僕はねぇ、
小さい頃は身体が弱くて…

(イヴァンちゃん?!どうしたのっ?!毒を入れられたの?!)

…虐められっ子だったから、閉じこもってて

(……ブラギンスキぃい!×ねぇえぇえ!)

……だから」

「うわわわもういいです!!?もういいです!!」

何故か菊が慌ててイヴァンの回想を止めに入り、イヴァンと向き合って首を振りました。菊があまりに必死なので思わず笑ってしまいました。

「えー、どうしたの本田くん?」

「いえ、その…っ!誰しも言いたくない事情は有ると、すみません出過ぎた真似を…」

「うん〜?僕の事何だと思ってるのかな?」

「あの…違ったら申し訳ないのですが、その…自宅警備員という意味では無かったのですか?」

ビクビクと怯えながら首を傾げる菊に、イヴァンはきょとんとしてから自分の発言を振り返り「そう来るか〜」と笑いを堪えました。

しかし菊は何故イヴァンが黙っているのか分からないようで、不安そうな顔で、イヴァンを見上げています。

「…うん、そうだよ。僕ねぇ、ずっと引き篭ってたんだぁ〜。
だから、嬉しいな」

にっこりと、イヴァンが笑いかければ菊もホッとしたようでした。
菊を解放して、イヴァンは部屋に戻り目を閉じます。
また、過去の姿が脳裏をチラつきました。

「…何よりも、君が僕を怖がらないで、ちゃんと見てくれることが本当に嬉しい」






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