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貧乏学生の本田があらわれた!
イヴァンの眼

その頃、菊はというと。

「あの、イヴァンさん?」

「……」


イヴァンに押し倒されていました。



****




ギルの部屋に帰って来た菊は、暗い部屋に何か嫌な事を思い出しそうな気がして、直ぐに電気をつけました。

その菊を後ろで見ていたイヴァンは、じっと観察するような目をしていたかと思うと、いつも通りの笑みを張り付けて、部屋に上がります。

「…あのねぇ、本田くん。僕とちょっとお話しよう?」

「おや、なんでしょう唐突に」

「うーんとね、僕って君の事なんにも知らないじゃない?だから聞きたいなぁ〜って!
どうして、今になって大学に通う事にしたの?
どうやって、過ごしてきたの?
君は、どんな経緯でギルベルトくんと住んでるの?」

無邪気に聞いていたはずのイヴァンの声は段々と違う感情を滲ませました。子供が、これは何?と聞くような。彼氏の浮気の証拠を突き付けて、これは何?と聞くような。

イヴァンの探るような目を見つめて、菊は首を振りました。

「…何も、特別な事はありませんでしたよ。
高校を出てすぐに就職したので、お金も貯まりましたし、大学に入って専門知識を付けたいと思ったのです。
ですから、予備校に通って、合格して、生活費使い切って、ギルさんに拾われて」

「……え?」

菊は至って、まじめに答えたつもりでした。恥ずかしいながらも、拾われる経緯も、今の環境も。
ですのに、話す度にイヴァンの紫の眼がユラユラと揺れて、困惑しているような、悲しんでいるような気がして、菊はふと言葉を止めました。

イヴァンは、酷く傷付いた顔をして居ました。

「…イヴァン、さん?どうされたのですか、何か、辛い思いをさせてしまいましたか?」

オロオロとする菊の手首を掴み、イヴァンは菊の体を抱き寄せます。まだ、表情は捨てられた犬のような顔で。

「………ッ!!」

苦しそうで、泣きそうなイヴァンの頭に菊は自由な方の手を乗せました。撫でる、なんて選択肢は普段なら無いのですが、菊にはイヴァン本当に犬に見えてきたようです。
よしよし、と菊が慰めるように撫でるとイヴァンは驚いたように目を見開いてから菊の手首を離し、
菊の胸に頭を押し付けるように、抱き着きました。

「……君って、酷いよね」

「ちょっと、イヴァンさん」

「…嫌だよ」

離れる事が、なのでしょうか?と菊は諦めてイヴァンの背中をぽんぽんと軽く叩いてやりました。

「……嫌だよ、
君の中に、僕が居ないなんて」

夏も近付こうとしているのに、イヴァンの声は酷く凍えそうでした。




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あきゅろす。
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