簡単な挨拶と、本当に大学生になるのか、爺だってイジメられるなよ、と皮肉と心配が混ざった彼らしい文章に思わず笑みがこぼれた。
それと同時に、まだ、自分はアーサーと繋がっていたいのだと再確認した。
「本当なら、私なんて」
アーサーさんは、彼の一族の子会社の社長になった。彼の若さで社長だ、しかも就任してからその子会社は急成長を遂げた。
一方、私はなんだろう。
どうして、彼と友達で居れると勘違いしてしまったのだろう。
「…いえ、それも、勘違いかもしれませんね」
もう、切れてしまったのだきっと。
高校時代は、確かに繋がっていたけれど、もうそれは過去だ。
消し忘れていたメールを消して、
定期連絡しろとアーサーに言われてしている空メール(忘れると次の日には着信履歴が大変な事になりますよ)をしてから、また歩き出した。
ふと、家の近くのコンビニに入るとイヴァンが難しそうな顔で悩んでいた。
「あ、本田くんおかえりー」
「こんばんは、…ええと、何をされているのですか?」
菊が尋ねると、イヴァンがマグカップにゼリーの入った商品を指差した。
「これ、可愛いなぁって」
「ああ…これですね、期間限定品です、うっ…三種類あるのですねしかし…ううう高い…ゼリーが三つは買えますね」
「本田くんもそう思う?でも、好きでしょ……あ」
「はい、好きです…どれも可愛らしくて悩みますね…」
「……うーーん、カードはあるけどもしかしたら止められちゃってるかも知れないしなぁ」
悩みながら、目線を彷徨わせる菊はふと期間限定肉まんを見つけてそれを買うことにした。
キャラクターの顔のはずだが…だいぶ崩れている。
「これで、我慢しましょう」
「わ、独創的な色と形だねー」
半分に割ってしまえば、もはやなんだったったのか判別もつかなくなる。
「はい、どうぞ」
「くれるの?Спасибо!」
嬉しそうに肉まんを頬張るイヴァンと帰路につく。
「なんか、誰かと一緒にこうやって歩くのって不思議な気分だねー」
「そうですか?学生の頃はよく、買い食いをして帰ったものですよ」
先ほど、アーサーのメールを見て学生の頃を思い出していたのでそんな事を口走る。
そんな思い出に浸る、菊の手首をイヴァンが掴んだ。
「痛、いです」
「……あ、ぁあごめんね」
謝るのに、手は離さない。
「そうだよね、君にも、学生時代とか一緒に帰る人とか居たんだよね」
「…ええ、ですが…もう十年くらい前の話ですよ」
「…僕には、君だけなのに」
車の音に、イヴァンの声が掻き消されて、彼の目を乱れた前髪が隠した。
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