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貧乏学生の本田があらわれた!
菊は不安をおぼえた!

繁華街の一画にクラブ【悪YOU】はある。今日の夜も疲れた女性の心を癒すため、生活費を稼ぐため、様々な思惑の中で店は盛況していた。

裏口の戸を開けて、本田菊は空き瓶を外の籠へと捨てに出た。
ウエイターのような格好をした彼は、疲れたように俯き薄暗いビルの間を歩く。

「フランシスさんには頭が上がりませんね…」

クラブ【悪YOU】の店長でもあるフランシスは、菊が大学生で有ることから朝の授業に響くといけない、と閉店時間まで残さなかったり、まかない料理を出してくれたり、優遇してくれているように感じた。

まだ菊は仕事に不慣れな為、先輩を付けて貰わねばならず、効率を悪くしてしまっているのではないかと不安に思う菊だったが、フランシスも、ギルも「気にするな」と笑っていた。

「情けないです…殆ど歳も変わらないのに…」

こうして、汗水垂らして働くことは真っ当な人間らしくて誇らしいが、この歳になるまで気付けなかった事が恥ずかしい。

「……お金を貰うのは、大変な事なのですね」


暗いビルの間を見ていると、昔の風景と重なる。
暗い部屋に、
何もせずに、


…ただ、「あの人」が帰って来るのを待っていた。

「本田さん、帰ってくるの遅いって店長が心配してますよー!!」
「…あ!」

後ろから声をかけられて、手から空瓶が滑り落ちた。

「うわ!」

当然、割れた瓶が散らばり菊は青ざめて立ち尽くしていた。
すると、先程声をかけてきた同期の青年が塵取りと箒を手に駆けてきて、ようやく菊は状況を把握した。

「す、すみません鈴木さん!」
「いいっすよ、本田さん慣れてないんですもん」

彼は、菊より年下であるが前も居酒屋でバイトしていたらしく手際が良い。同期とはいえ、差は歴然だ。

「…実にすみません。私も、鈴木さんくらい仕事が出来れば…」

「…そうっすね、人間って得手不得手ありますからねー?
もし、手っ取り早やく稼ぎたいなら俺、良いバイト知ってますから、声かけて下さいねー!」

瓶を片付けながら、鈴木は明るく菊に笑いかけた。
一方、「良いバイト」という言葉に若干の胡散臭さを感じながら、菊は曖昧に頷いて店内へともどるのだった。




ギルにバイトを紹介して貰った手前、もう一つバイトを…なんて言ったら彼にもフランシスにも失礼ではないか、と菊は考えて。
相談はしない、と決めました。




さて、いつも通り早めに帰った菊はギルが帰って来るのに合わせて、ご飯と味噌汁を作ります。ついでにギルのスーツにアイロンをかけて、資源回収の準備をして……


ふと、外の階段を慌てて駆け上がってくる音と、怒鳴る声が聞こえました。

「…ギルさん?」

「…っ!ちくしょう!金は使ってねぇよ!そのまま返すから帰れ!近づくな!睫毛が抜けるだろ…!」

「えっ」

玄関を勢い良く開けて、バタバタとギルが部屋を駆け、何処からか札束を出して玄関に向って叫びました。
何事か、と菊が割烹着を外して玄関を覗くと。

「おじゃまします」


そこには、白いマフラーをした大柄な青年がにこやかに立って居ました。









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