貧乏学生の本田があらわれた!
ロマーノと写真
高層マンションの一室に、扉の解錠音が響いた。
部屋の主はアントーニョである。
「ただいまぁ!『ロマーノ』!親分がおらんくてさみしかっ……あれ?」
仕事前、『ロマーノ』が寝ていたソファーには誰も居らずアントーニョは首を傾げ、とりあえず風呂へ向かった。
もちろん彼の姿はない。
「もう深夜回ってんのになぁ…」
噂をすれば、玄関の方で物音がした。アントーニョは急ぎ足でロマーノを出迎えにいく。
「…あ?なんだ、帰ってやがったのか」
「ふぁあぁあ!ロマーノ!おかえりー!なんやの、こんな時間までほっつき歩いて、この不良息子はー!まぁ無事で何よりやわ…」
アントーニョの心配は他所に、トレンチコートを脱ぎ捨ててロマーノは気怠そうに風呂場へ向かい、ちらりとアントーニョを見た。
「…た、だいま…」
「…あ…!…おかえりぃ、ロマーノ」
感極まってハグしようとしたアントーニョの腕をひらりと交わすロマーノは冷ややかな目で、部屋の主を睨みつけた。
なんだこいつちょっとデレたからって調子に乗るなよこのヤロー、と言わんばかりの目に、アントーニョは悲しげに眉を八の字にして反省したように座り込みました。
「…なんだよ、いつもよりテンション高ぇぞ。何かあったのかよ?」
「あ!分かるぅ?!実は仕事先にめっちゃ可愛い子入ってきてん!そんで、ホールしてくれるんやけど、何か仕事中めっちゃ親分と目が合うんやわ!これってあれかな!?意識されてる〜みたいな!……」
「あぁ、時間の無駄だったって分かったぞカッツォ!」
珍しくロマーノから話題を振ったのにまさか惚気を聞かされることになるとは思いませんでした。
しかも、一方通行な。
「てめーの仕事場って事は野郎だろ。なんで可愛いとかそんな話になるんだ…」
「や、いっちゃん可愛いのはロマーノやで!ほんまにかわええ!」
熱の入ったアントーニョの瞳に、ロマーノは思わず顔を逸らして「そうかよ」と受け流し、さっさと風呂へ向かいます。
と、彼のポケットから一枚の写真が落ちアントーニョが拾いました。
「ロマーノ、これ…」
「…っ、勝手に見んなよ」
奪うように写真を掴み、何か言いたげなアントーニョにロマーノは目を細めてニヤリと笑います。
「…俺に此処に居て欲しいなら、余計な詮索すんじゃねーよ?…お前が言うから、居てやってるんだからな」
そう言いながらも、ロマーノの瞳にやや焦りが見えたのですが、アントーニョはにっこり笑って見ない振りをしました。
しかし、写真についてアントーニョは少し不安を感じて居ました。
「…あれは、菊ちゃんと……なんやおっかない奴やったなぁ…」
明らかに、隠し撮りのアングルでしたが白いマフラーに黒いコートの大柄な青年と話す菊の姿の写真でした。
ロマーノは、アントーニョが駅で拾ってきた同居人ですが色々謎が多い青年です。
時々、硝煙の香りがするのを知りながらアントーニョは今日も彼を愛でるのでした。
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