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貧乏学生の本田があらわれた!
アルと約束

さて、寮から大学に行って授業を終えた菊は、


「やぁ菊!!俺との約束どうなってる?」

「ぜ、善処シマス…」

真っ黒なオーラを放つアルフレッドに捕まりました。


そういえば、色々あって彼の約束を反故にしてしまったのでした。マシューさんを病院に連れて行くからまとはいえあの時は深く考えませんでしたが、彼を怒らせてしまったら怖いです。
今日も、取り巻きを引き連れた彼はしかし、他には目もくれず菊を見つけるやいなや飛んで来て、今こんな状態です。
とても帰りたいです。

「きょ、今日は用事があるので、片付けとかしないと行けませんし…」

片付け、とは言わずともがなアパートのあの荒らされた部屋です。犯人は分かりませんが、とにかく部屋をとっておいてくれる彼にも汚したままでは申し訳が立ちません。

そんな事は関係ないと言わんばかりに、アルフレッドは目を細めて、すい、と菊の腕を掬うように取りました。

「…前に、約束を破ったら菊から欲しいものが有るって言ったの覚えてるかい?」
「え…?!きょ、今日は生憎持ち合わせが」

「あぁ!大丈夫なんだぞ!俺が欲しいのは『もの』じゃないからね」

途端に、菊の背筋に悪寒が走りました。ただ、手を取られているだけなのに、支配されたかのように体が動きません。それどころか、アルフレッドの視線に晒されていると何か嫌な事を思い出しそうになるのでした。
それは、駄目です。


「さ、触らないで下さい!!」

「……酷いな、菊。俺って凄く傷付きやすいんだぞ?」

およそ言葉どおりとは思いませんが、菊に振りほどかれた彼は、少し寂しそうに笑っています。

「…だからね、菊…」

彼はやや屈み込んで菊に耳打ちしました。

「…他の奴らなんて、見ないでくれよ」

「え…」

いつもの彼の声とは違う、悲しそうで怯えたような声に菊は思わずアルフレッドを仰ぎみました。しかし、そこにはいつも通りの、曇りのない明るい笑顔が有りました。

「…と、いう訳だからさ!
ちゃんと約束、忘れないでくれよ!じゃあ……」

立ち去ろうとした、アルフレッドの背に思わず菊は手を伸ばして居ました。さっきの、悲しそうな声が頭に残り罪悪感に苛まれてしまいそうだったので、
驚いて振り返ったアルフレッドに、小指を差し出しました。

「…ええと、なんだい、菊?」
「なっ、ご存じないのですか……?!
こう、指を絡めて…」

あまり自分から話しかけてこない菊が、自分から小指を絡めて来たのでアルフレッドの心の内では大パニックが起きています。顔も赤くなるし、調子狂うんだぞ、と彼は顔を逸らしました。

と、同時に菊がなにやらおまじないのような歌を歌います。

穏やかな顔の菊を眺めるのは、なんだか久しぶりで、アルフレッドは惚けたようにそれを見ていました。いつも、そんな風に笑って欲しいのに。

「……はい、終わりましたよ」

「エッ!そ、そうかい!?良かったじゃないか…」

「…?はい、ではアルフレッドさん、また…」

指切りして、満足げな菊は颯爽と去って行きました。

残されたアルフレッドは、菊と繋いでいた小指を見つめながらしばらくそこに突っ立っているのでした。


取り巻き達も困惑気味にそこで見ていたのですが、ひとりの女の子は明らかに怒りを露わにしながら菊の後を追いました。




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