貧乏学生の本田があらわれた!
ギルが斬る
その日の、クラブ『悪YOU』は少し荒れていました。
というのも件の、あの女の子がギルを指名したにも関わらずギルが仕事に遅刻していたので、彼女は他のホストに当たっているからでした。
「ま、ちょっと絡みが面倒なだけで羽振りは良いんだけど……若い子がする遊びじゃ無いわな」
「せやなぁ、そう言えばギルの奴はなんて?」
カウンターから、フランシスとアントーニョが観察してるとも知らず、彼女は少し高いお酒を注文して荒れています。
「なんか、菊ちゃんを病院まで迎えに行ったみたい」
「えっ?!菊ちゃん病気なんか!」
「それが、なんか違うみたいだったけどアイツ、独りで帰ってくんな!そこに居ろ!って言ってすっ飛んでったのよね」
経営者としては、そんなギルの行動には呆れてしまいますが。兄貴風を吹かせている彼は、生き生きとしているのでフランシスはそんなギルを見るのも良い…と思う反面。
「ま、これ以上ドタキャンしたらあいつクビだけどね!」
「せやな〜、それでええわ、お前は」
公私は混同しないのです。ええ。
そんな話をしていると、ギルがかったるそうに出勤して来ました。
フランシスが目で合図すると、少し嫌そうに彼女のテーブルに入りました。
「もう!!ギルさんおそーいっ」
「おぉ?なんだよ、もう出来上がってんじゃねーか、お帰りになるか?」
「んふふ、まだでーす!まだ帰らないよーだ!…ねぇ、聞いてよギルさん!」
ギルがお気に入りらしい彼女は、また大学の話をしました。抱きしめあってたとか、そんな話をしながら彼女はどんどんヒートアップしていきます。
「でも、今日はあんな顔が見れて良かった!」
「真っ青な顔してさ!人に迷惑かけんじゃないわよ、まったく」
ブーメラン頭に刺さっとるで、とアントーニョは思いました。
「それは、やり過ぎじゃねぇのか」
彼女の声を断ち切るように、ギルが静かに怒りました。
今さっき、菊を病院から連れて帰って来たので他人事とは思えなかったのでしょう。他人事じゃないのですけどね。
菊は、事故の全容を話した訳では無いのでギルは細かい事は知りませんが彼女の話にはムカついていました。
「恋愛感情を言い訳にして、嫉妬で人を傷付けてるようにしか思えねぇよ」
「は…?なんで、ギルさんがそんな事言うの…」
彼女の口元は笑いながら、震えています。
「そんな卑怯な奴は、俺様は嫌いだぜ」
「…っ!!」
顔を真っ赤にして、彼女はグラスの水をギルの顔にかけました。ギルはなんとも無いような表情で「他のお客様のご迷惑になりますので」と、優雅に扉を開き、帰れと無言で促した。
彼女が怒りと、恥辱に打ちひしがれながら店を後にすると店の中からは拍手が起こり、ギルはぐっしょりとした前髪を掻き上げながら、フランシスに会釈をして控室に戻っていきました。
アントーニョが、少し心配そうに彼女の出て行った扉を見つめながら呟きます。
「まだ、早かったんやないかなぁ…忠告するにしろ、もうちょい仲良くなってからやないと、素直に話聞かんやろ」
「うーん、お兄さんはこれが正解だと思うけど。これ以上入れ込まれてたら、ギルが刺されるとこだよ」
「…せやけど、あの目はあかんよ…」
アントーニョは、見ていました。
彼女の目は、明らかに危害を加える側の荒々しい激情を燃やしていたのです。
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