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貧乏学生の本田があらわれた!
マシューが庇ったようだ

さて、夕飯まで時間があるものですから菊は焼肉屋の近くの道を散策する事にしましょうか。
春の日の入りは早いもので、街はオレンジ色に色付いています。遠くの山に雁の群れが矢印のように飛んで行くのをみながら、ふと、足元の花に目を奪われて歩みを止めた時でした。

「危ないっ!?」
「え…」

緊迫した声と同時に、何かが覆いかぶさって来ます。守られるように強く、抱きしめられた事でなんとなく昼下がりのアルフレッドとのやり取りを思い出されます。

そこまで思い出してから、目の前の顔に息を飲みました。

「アルフレッド、さん?」
「………い、いえ、人違い…です」

アルフレッドにそっくりの青年が、遠慮がちに菊から体を退きます。状況が判断できず、彼を見つめて居るとアルフレッドでは決してしないような恥ずかしそうな笑みを浮かべました。

「怪我は…ありませんか?」
「はい…問題は有りませんが…その、何かあったのでしょうか?」

「ああ、それは良かったです!」

ふにゃり、と笑う彼に菊は心の中で天使三号(一号はフェリシアーノ、二号はティノ)と命名してから彼の腕に赤い染みが出来て居るのをみて、菊は動揺しました。

「貴方が怪我をされているでは有りませんか…?!」

慌てて、その腕を引くと「いたた」と呟くので菊は原因を探します。

「僕は大丈夫です…!だから、早くここから離れましょう」
「待って下さい、いったい何が…」


足元で、パキと軽やかな音がして菊はアスファルトの地面を見つめました。硝子の破片が散らばっていて、そんなものは先ほどまで無かったのに、と考えてから。ようやく頭の中で話が繋がりました。
側のビルの窓が、ひとつ綺麗に割れているではないですか。

「庇って、下さったのですか…!」
「あ、いや…」

困ったように笑う彼は、急に側のビルを仰ぎみて目を眇めました。やはり、アルフレッドに似ている気がします。

「…菊さん、早く離れましょう。出来たら人通りの多いところへ」
「……」

名前を呼ばれた事に内心驚きながらも、菊は彼に従いその場を離れました。菊の見ていた、道端の花は硝子の破片に押しつぶされていました。




「ここまでくれば、安心ですね」

此方までホッとしそうな笑みを、彼が浮かべます。

「…助けて頂いて、有難うございました。…お名前を」
「え、うぁああぁ…いいんです!僕の事は忘れて下さい、僕なんて、その…」

「お名前を」
「ま、マシューです…」

観念したのか、苦しげに名前を告げるマシューの傷口に菊は持っていたハンカチを……やや止まってから、縛るようにしました。

「わ、悪いですよ」
「…いいんです、お使い下さい。……きっと、その方が喜んで下さいます」
「……?」

ハンカチは、やけに良い生地のようで刺繍も入っているようでしたが、マシューはそこまで気が付きません。

「あ、あの!何か約束があったんじゃないんですか…?」
「?………あっ」


青ざめながら、菊は携帯電話を急いでかけました。




『……ふぅーん、そうかい。なら今日は無しにしよう、また来週なんだぞ』

意外とあっさり、アルフレッドが約束を後日にしてくれたので、菊はマシューと同伴しながら近くの医者に行く事にしました。



マシューは断ったのですが、珍しく押しの強い菊に押し切られたようでした。


それにしても、老朽化していたとはいえビルの硝子がひとつだけ綺麗に、しかも内側から割れるなんて事があるでしょうか。

「悪ふざけが過ぎるよ」

アルフレッドが、菊の電話を切ってからひとり心地に呟きました。





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あきゅろす。
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