貧乏学生の本田があらわれた!
アントーニョがによによ
アントーニョに半ば引き摺られるように、ギルは仕事場についた。
ギルは紫のネオンの妖しい光に、脳内がくらりと反転しそうになるが、なんとかアントーニョの手を払って、裏口から店内に入って行く。
「お前、最近変わりよったな」
「…はぁ?」
準備を始めたギルの背に、少し驚いたようなアントーニョの声が続く。
「前は……フランシスには黙っとるけど、アフターで女の子と『どっか』行ったりとか」
「……」
「わ、怖いわー」
赤い目がアントーニョを睨んだが、彼は縮み上がるようなそぶりをしたものの実に楽しそうである。
「な、アカンよ?それは女の子傷つけるし、お前も幸せになれへんよ」
「うぜぇー…」
確かにギルには荒れた生活をしていた時期があった。自暴自棄になり、店やフランシスにも迷惑をかけてしまった。
なんとか立ち直ってくれて、悪友はホッとしているのである。
「最近ついでに思い出したんやけど、ちょっと気になるお客さんがおってな」
「おい」
「あ、ちゃうよ!手は出してないで!……多分あれ、大学生やなって子がおってな、未成年やないんやけど…」
言い淀むアントーニョに、
「親の金使ってホストクラブにつぎ込んでるお嬢様ってか?」
「うっわ、せっかく親分が気ぃ遣ってたんに台無しやん」
しかし否定はしないのか。
とにかく、そんな奴が居るのかよとギルはため息をつく。フランシスはよくやってくれているが、客は選べない。追い出す程の事もしてないので、現状はどうにもならない。
「同じ大学生でもだいぶ違ぇな…」
「あ、菊ちゃんの事か?」
によによ、と隣で笑う奴の顔をとりあえず一発叩いた。
仕事開始早々、問題のお嬢様とやらに指名されてしまった。
「……ご指名アリガトウゴザイマース」
やる気のない声で謝辞を述べる彼にフランシスは内心焦っていたが、問題の客は満足そうにギルを眺めていた。
そして、彼女はギルを相手に大学での自分の話を延々と始める。
「…それでね、アルったら酷いの!!こんなに私が目を掛けてあげてるのに、私との約束を無しにして他の……しかも男とご飯行くって言うのよ!」
「信じられない、あんな地味な奴!」
「きっとアルの弱点を握ってて、アルに脅しをかけてるのよ!!」
…適当に相槌をうっていたら、なんだか話が不穏な方向へ向かっているような気がしてきました。
ギルはなんとか、宥めながら、彼女の怒りが静まるように話をしました。腕の見せ所ですね!
彼女は憤りながらも、ギルの会話術に気分を良くしたのか、また自分の話をし出しました。
「だから、ウチのパパは社長だからね。逆らえないのよ、お陰でいっぱい『お友達』も居るしね…」
「ギルさんも、私を怒らせない方が良いわよ?…なんてね」
あぁ、だいぶ患っているようだ。
とギルは思いましたが何も言いません。
まさか、この女性の言うところのアルの弱点を握ってる(?)地味な奴が、自分の部屋で豚汁とお握りこさえて待ってる菊であるとは、ギルは到底気がつきませんでした。
そして、自分で話しているうちにすっかり妄想の敵になった菊を憎んだ彼女が、これから何をしようかなどとは
皆目、検討もつきません。
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