オトンとオカンと
梵天丸編
梵天丸編
くるしい、くるしい
かあさま
どこ
「…ちっ」
嫌な夢だ、本当に。
救い様のない、惨めな夢だ。
愛されていない事は知っている。
それでも、
ぱちり、と目を開けると。
コタツで寝ていたらしい、隣では、熱いのだろうか弁丸がうなされているので、電源をひとまず落とす。
ふと、アイツの具合が気になって部屋を覗きに行く。
暗闇の中で、苦しそうな呼吸が聞こえた。
「……梵天丸?」
「寝てろよ、病人だろ?」
暗闇から、名前を呼ばれて苦笑いする。
すぐに分かるのか、お前は。
「うつってしまいますよ」
「ハッ、知らねえのか?小十郎が言ってたんだが子供はかぜの子だからな」
「それは恐らくカゼ違いなのでは…」
ぶつぶつ小言を言うのを聞かないふりをして、俺は鵺子のそばに行く。
「駄目です、よ」
「…聞きたくねぇ」
ヒュウ、と喋る度になる喉が気に入らない。
「うー、ならばせめて布団に閉じこもるまでです」
風邪菌シャットダウン、とか言いながら布団に潜り込むコイツを冷めた目で見ながら、至近距離で座り込みおもむろに布団を撫でた。
「…なぁ、アンタはさ」
「……」
「こうして、撫でて貰った事はあるか?」
「……さぁ、覚えていません」
布団の下で、鵺子はどんな顔をしているんだろう。
「俺は……無い。多分、体調が悪いって事にすら興味も持って貰ってねぇ」
「っ…」
「どんな感じなんだ?鵺子」
ただの好奇心だったのに、返事の代わりに手が布団の中から伸びて、ウロウロと宙を彷徨う。
思わす吹き出した俺に気がついたのか、彷徨っていた手は俺の手を掴んだ。
じんわりと、熱が伝わる。
そして、頭へと伸びて。
ぽんぽん、と撫でられた。
「子供は、早く寝なさい。ちゃんと手洗いうがいするんですよ。看病は大人の仕事です、無理しなくていいんですよ」
「な…っ」
「…梵天丸が風邪を引いたら、私は全力で看病しますからね、覚悟してください」
ズルいじゃねぇか、そんなの。
子供とか大人とか持ち出されたら。
「じゃあ、俺はいつアンタを看病出来るんだよ」
「ふふ、させませんよ…なぜなら私は君、の….…」
声がだんだん、勢いを失って。
鵺子はまた、眠ってしまったようだった。
だらん、とした手を布団に入れてやって。
足早に部屋を出る。
やけに頬が熱いのは、風邪のせいか。
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