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オトンとオカンと
家族ごっこ


「私はまだ一般人だよ。確かに勉強はしてるけど、免許も何も無い。それが人様の子供を預かる?預かってる間に何かあったら、私は」


二人の視線に、息が詰まる。
でも正論だ。

私は私を保証出来ないのだから。人が経験によって成長するにしても、私はまだ経験不足なのだから。


「早く、連絡してあげないと駄目だ」


私にはまだ、子供を世話する能力はないのだから。



***

「…鵺子は、殴ったりしないだろ」


梵天丸が、目を開いてそう囁いた。


「俺は、殴ったり恨み言を言ったりしないならいい」

「…っ梵天丸」


「アンタは撫でてくれただろ。…それで十分だから」


片目は隠れているはずなのに、強い強い眼差しに私は動けなくなる。


「ははうぇ…?」


騒ぎに乗じてか、弁丸まで目を覚ましてしまった。彼は自らの掴んでいたモノが母のものではないと知って、また泣き出すのだろうか。

きょとんと、丸い目が私を見上げて。


「…ははうえ」


ふわり、と花咲くように。弁丸は目を細めて笑った。おそらくまだ寝ぼけているのだろうが、彼は立ち上がって私の膝の上に座り込んだ。
そして、心音を確認するように私の胸に頭を預けてまた眠りにつく。



きっと、勘違いなんだ。
たったそれだけの話なのに、無防備にこの小さな体が、私に寄り添う事が嬉しい。


嬉しかった。


***

成り行きを見守っていた佐助が、弁丸を抱きかかえて軽く背を叩いた。

「…ま、鵺子の事は分かってるつもりだよ。一応幼なじみだし?…その上で頼んでるんだから」


「だが、何も気苦労をひとりで背負わせる訳にもいかねぇな。…鵺子、俺はしばらく此処に住んでいいか」

「ちょっと待ちなよ右目の旦那ぁあ!」


弁丸を抱えたまま、青ざめた佐助は小十郎を部屋の隅まで引きずっていく。

「何それ、独眼竜とそんなに居たい訳?それとも子育て口実に鵺子と同居生活する気?むっつりなの?」

「……男に二言はねぇ。政宗様を預かって貰う以上、責任を持って俺が世話をする」


笑顔で黒いオーラを飛ばす佐助に、あくまでも淡々と対応する小十郎。

「いやいやいや!同居?俺様が許しませんって!…はぁあ、生まれ変わってまで旦那と対峙するなんてなぁ」

ため息をつく佐助はしかし、とても楽しげな笑みを浮かべている。
対する小十郎の口端も僅かに上がった。


「対峙?何を言ってやがる、協力だろう?…子育てにおいてはな」

「それもそうだなー、まぁじゃあ公平に一緒に住みますか」




「君ら、私に同意は求めないのか」


二人して、なんで火花散らしてんだろうか。しかし、住む事は決定らしく。


かくして、オトンとオカンといきなり二人の子持ちになった私の奇妙な同居生活が幕を開けたのだった。



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