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オトンとオカンと
きっとそれは悪趣味な

泣き出してみると、涙と一緒に不安やらなんやらも出てしまったのか冷静に状況を振り返る事が出来た。
いや、冷静になろうとした。

「鵺子、佐吉は……」

「……竹千代」

不安そうに、私を見上げる彼は青ざめていた。いま、私はどんな顔をしているんだろう。

「佐吉は、」

徳川家康に、

竹千代に、

君に、


「………竹千代、はそんな子じゃないですよね…」

「鵺子?」

何か、粘着質な、呼吸がし辛くなるような、体の中がドロドロに煮えるような感覚だった。
竹千代を見るのが辛くて、私は、自分勝手に彼の視線から逃げた。


そんな私に対して、彼は酷く傷ついたように顔を歪めた。

「儂が、何かしたのか…!」

「母上…?」

竹千代を慰めるように、佐助と弁丸が駆け寄る。弁丸が不思議そうに、悲しそうに竹千代と私を見比べていた。

それが、責められているような気がして。


また、泣きそうになる。



すると、急に腕を引かれた。


「うん、よくわからないけどさ…とりあえず飯にしよう!」

慶次さんが、屈託無く笑いかけてきた。この空気をぶっ壊して、くたくたの私を支えながら。彼はいつものように芝居がかった台詞でみんなにそう提案した。

「そうそう、この先に美味い甘味屋があってねぇ!絶対にアンタも気にいるよ」

「慶次さ、」

そんな場合じゃないです、と言おうとした私のそばでひっそりと「俺に任せなよ」とまた笑う。


周りも、とにかく落ち着く場所へという意見には賛成らしく。私達は慶次さんについて甘味屋を目指した。

その間、時々竹千代の視線を背中に感じながら私は俯いて歩くのだった。
しかし、隣では楽しそうに明るい声で話す慶次さんが居てくれたおかげだろうか、

店についた時、わたしは竹千代に「すみませんでした」と謝る事が出来たのだった。







そんな中、

最後尾を歩く小十郎は険しい顔をしながら、佐助はいつもよりやや眉を顰めて、鵺子の事について話していた。

「旦那さぁ、いいの?前田の風来坊に良い格好させちゃってさぁ」

「…いや、適任だろう。俺たちみたいに近すぎる奴に頼り辛い時もある」

「あらら、冷静なんだ」

「……後で落とし前はきっちり付けてもらうがな」


訂正、やっぱり旦那は過保護です。

そして佐助はまた少しだけ、眉を顰めた。

「…鵺子さ、何を見たと思う?」

「佐吉……いや、石田三成に関するものだな、そして…」

小十郎はちらり、と弁丸と梵天丸に挟まれている竹千代を見た。
竹千代に対しての鵺子の反応から察するに、恐らくは戦場か最悪の場合は……


「最期、か」

きっとそれは、悪趣味な神様による絶望的な別れだったろう。
どうして鵺子なのか、どうして最期だったのか、次にまたこの現象は起こるのか、

分からない事ばかりだ。


そう思案しながら、佐助は慶次に手を引かれている幼馴染を見つめる。

あぁ、そうだよな旦那。
近すぎる俺たちじゃ、駄目な時もあるかもしれないけどさぁ。

「それでも、一緒に居てやりたいんだ」

あいつの泣き顔なんて、他の誰にも見せたく無かったよ、

なんて。

俺様も案外、人間らしいとこあるのよね。










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あきゅろす。
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