オトンとオカンと
何に成れたのだろうか
※死ネタ注意
「ただいま…ええと、三成?」
「…どうとでも呼べ」
やけにおざなりじゃないか。もっと敬えとは言わないが、まぁ彼なりに色々許容してくれているんだろう。許す。
「…結局、独り言扱いされましたね」
からかうように話しかけると、無視された。しかし目線で「座れ」と促されて私はおとなしくしたがい、三成のそばで寄り添うように眠った。
うつらうつらとしながら、エアーで三成の頭を撫でた。
そして、日が登る前に。
三成は牢から消えていた。
*****
なんで一声もかけないんだよ!
というツッコミを牢で独り叫んだ。
慌てて城内をすり抜けながら走る。どうかどうか間に合いますように、どうにも出来ないけれどせめて、
「佐吉ぃいっ!」
白装束に着替えた彼が、城の中庭に連れられていく。名前を呼んだ時、僅かに此方を向いてからすぐに向き直る。
なんだこれ、幕が張られた其処にはお偉いさんらしい人たちが数人立ち会うらしい。
麻袋を掛けられていた三成から、それが取られて人工的に掘ったらしい四角い穴の前に立ち膝で座らされている。
間に合った、よか……良くはない。
どうもできないのに、彼が居なくなったら、私は話し相手も居なくなるのに。
「佐吉、佐吉…っ」
「……」
無言で首を垂れる三成の背後に、剣を抜いた男が立つ。
やめろ、と叫んで。私は佐吉を守ろうと間に立って手を広げた。なのに、当たり前だけど、男は刀を振り上げる。
何か、言い残す事はあるか。
本当に、そうやって聞くのか‥と思いながらどうにか邪魔出来ないかと、すり抜けてしまう両腕を振り回す。
「やめろと言ってるんだっ!なんで!すり抜けるんだ!もう!」
「……鵺子、案ずるな。貴様は戻れる、私が居なくなれば…」
「何言ってるんです、佐吉…っ!今は」
「……お前に会えて、良かったと思う」
あぁ、そんな。
穏やかな声で笑わないで。
「これから、もっと…!一緒、に…!」
「貴様は私の……」
あ、れ。
なんだか、意識が急速に遠くなる。
真っ白になっていく。
まだダメです、まだ佐吉が。
「さ、きち…っ」
「 」
佐吉?
なんて言って、
***********
ぱちり、と瞬きすると。
戦国の世界は幻のように消え去って、私はまた京都の町に立ち尽くしていた。
帰ってきた喜びより先に、私は辺りを見回して佐吉の姿を探す。
無駄だと分かっていても、探す。
多分、通りがかりからすれば異様な光景に映っただろう。喉が枯れそうになるくらい、叫んで、泣きそうになりながら、探す、探す、探す……
「…もう止めろ、鵺子」
「大丈夫か?鵺子」
小十郎に腕を掴まれ、私は静止する。
かたや、佐助が真剣な顔で私を覗き込む。
チビたちが、不安そうな顔で私を見ている。その中に、佐吉の姿はやっぱりなくて。
小十郎に掴まれたまま、私は座りこんでしまった。
佐助が、正面から抱きかかえて「もう大丈夫だからな」と囁いてくれて、もうダメだ、と私は泣き出した。
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